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ー未知ー119

 気付いた時には、完全に雄介と離れた場所に立っていたのだ。 しかし、雄介の方が日本人の平均身長よりも高いので、俺からすぐに雄介の居所がわかった。  地下まで誰も降りないようだ。 エレベーターのドアが開くと同時に、人々が一斉に降りて行った。 俺たちもその例外ではない。  降りてから、二人で思い切り息を吐く。  すると、雄介はクスクス笑いながら言うのだ。 「ホンマ、こういう人混みっていうのは苦手やわぁ……」 「確かにな……俺が住んでる街っていうのは、こんなにも人は流石にいないからなぁ……。 同じ東京でも都会と閑静な住宅街では違うっていうことなんだろうな」 「そういう事やんなぁ……ってか、ある意味、島の生活に慣れておった体にはキツかったっていう事なのかもしれへんよな?」 「あ、そっか……」  たった数日前に都会に戻ってきたばかりなのに、もう既に島のことを忘れてしまっていた俺。  確かに雄介の言う通り、島と比べると、人の数は全く違う。  とりあえず雄介と一緒に隣同士でデパートの地下を歩き始める。  しかし、本当に東京という街は凄い。  俺的には、こんなに真面目にデパートの地下を歩いたことがなかったから、そう思ってしまうのであろう。  生まれてこのかた、デパートの地下には縁はなかったのだが。  だけど今日は雄介の提案で、美里さんに出すお茶菓子を買いに来た。  お客さんを家に呼ぶのは初めてな俺。  それに真面目な話をするのだから、余計にだろう。 「雄介のお姉さん、どんなお菓子が好きなんだ?」  俺は店先に並んでいるお茶菓子を見ながら尋ねる。 「あーと……せやな……? 最中とかかな?」 「最中とかか? 最中だとお話し辛くないか?」  流石に最中だと、食べている間は話ができないことに気付き、雄介の視線に合わせてまで意見を言う俺。 「あー、確かに……そやなぁ。 ほな、何がええねんやろ?」  そう完全に天井の方へと視線を向けてしまう雄介。 「あー、確かに、そうだよなぁ?」  他に何かお茶菓子になるような物というのはあるのであろうか。 いや、沢山あるのは分かっているのだけど、だからなのか他にも好きな物がないのかと俺は雄介へと問う。 「じゃあ、他には? 何か好きな物はないのか?」 「他なぁ?」  そう言って雄介の方はまた天井の方へと視線を向けて考えてくれているようだ。 「和菓子系だったら、何でもええんと違うの? それに、和菓子やったら、あんま失礼な感じがせぇへんしなぁ」  確かに雄介の言う通りなのかもしれない。 和菓子なら割と日本人が好きなお菓子なのだから。

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