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ー未知ー132

「会った頃って……?」  そう雄介の中でその記憶を探してくれているのであろう。 そんな雄介の姿を可愛く思いながら、俺は、 「ん? 初めてお前と会った頃っていうのは、お前が俺の事を女医さんと間違えただろ? その言葉で俺の方は、お前にイライラってしてたんだけど……後にお前が病室で早く現場に復帰いたい。 とかで、ベッドの柵で歩く練習を勝手にして俺がそれを止めて、それで、その後、お前が言ってくれた言葉に共感出来た時の話をな……何でか急に思い出してたんだよ」 「あ、あー! アレか!!」  そう興奮したような感じで、雄介の方も俺の方へと視線を合わせるのだ。 「……って、なんか、嬉しいもんなんやなぁ。 だってな、望って、こう今まで素直にそないなことを俺になかなか話してくれへんかったから、そういう昔の話を詳しく話した事がなかったから、そん時の望の気持ちというんか、心の中でどう思っていたのか? っていうのが今まで分からへんかったからなぁ。 って、あん時の望って俺にそう思ってくれてたん?」 「え? あ、まぁ……確かに、昔の俺はそうだったのかもしれないんだけど……今はもうお前とは夫夫になるんだから、しっかりと俺の気持ちも雄介には分かって欲しくて、それに、隠し事もしたくなかったしな。 だから、思い出したことをそのまま素直に言ってるだけなんだけど……」  それを俺の方は真面目な表情で雄介のことを見つめ、言うのだ。 「あ! そういうことな……」  そこに納得してくれる雄介。  すると雄介の方は安心したかのように浴槽の側面へと寄り掛かって、 「んー? だけど、あん時の俺って、望に何を言ってたんだっけか?」  それを聞かれて俺の方は一瞬ムッとした表情をしたのだけど、 「だからさ、あん時のお前っていうのは、自分がしている仕事に早く復帰したい。 って言ってたんだよ。 俺も医者という仕事をしているから、人の命を一人でも救いたい。 って思っていたからな」 「あ……」  その俺の言葉で、その一言だけを口にする雄介。 「まぁ、確かにそれは常に俺は思っていることやもんなぁ。 せやから、医者っていう仕事もいいと思ったから、やる気になったわけやしなぁ」 「あ、ま、確かに、そうだよな……。 ホント、雄介って、人を助ける為に生まれて来たようなもんなんじゃねぇのか?」 「ま、確かに、そうなのかもしれへんけど……俺的には望に出会う為に生まれて来たのかもしれへんなぁ……」  それを素で言う雄介。  一瞬、俺の方は目が点になりそうだったのだけど、それを一瞬で微笑みへと変えるのだ。

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