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ー未知ー187

「そう……後は、雄ちゃんのそういうところがダメなところなのよ……。そう、はっきりしないところがね」 「確かに、そこは望にも言われたことがありますけど……」 「『けど……』の後は? 何か言いたそうなんだけど? そこで言葉を止めるっていうことは、まだ何か私に言いたいことがあるんじゃないの? 本当、そういうところ、雄ちゃんなのよねぇ。何事にもはっきりしないところがね」  本当に美里は雄介の性格をしっかりと把握しているように思える。やはり、そこは雄介の兄弟だからなのだろう。それに、俺より長く一緒にいたのだから、本当に雄介の性格をしっかりと知っているということでもある。  だけど、雄介は医者になってからも、俺と約束したのだから、少なくとも優柔不断なところは大分治ってきたはずなのだが。  それでも美里の前では、兄弟だからなのか、その部分は未だに隠せないのかもしれない。 「じゃあ、小さい頃と今とでは、そのところが違うっていうことを教えてくれないかしら?」  そう、雄介は美里に問われる。  確かに美里の言う通り、それを証明してもらいたいところだからなのか、俺も雄介のその答えが気になってしまい、横の視線から雄介の顔を見上げるのだ。  雄介はその美里からの質問に、俯き加減で少し考えた後、急に何だか自信に満ち溢れたような表情をし、美里の方へと視線を向けて、 「そこはですね……医者になってからの俺は、全くもって優柔不断なところには無縁ですし、患者さんが亡くなった時だって、悲しいと思っても涙することはないのですから……」  そう堂々と言う雄介。  そう言われてみれば、確かにそうなのかもしれない。  医者という職業上、俺との話し合いの時にも、優柔不断は禁物だと雄介には伝えている。その一瞬の迷いが患者の死に関わるからだ。そして患者の死を前にした時に、雄介は一度も涙を見せたことはなかったのかもしれない。それに雄介は、そういった意味では一番過酷な小児科医になったのだから。  小児科医というのは、子供が沢山いるところなのだから、少なくともそういった小さな命も誕生するところでもあり、当然小さな命の死だって経験するところでもある。  それに気付いた俺は、美里に向かい、 「美里さん……雄介はもう十分、その優しい性格を克服していると思いますよ。だって、小児科医ってそういうもんじゃないですか?」  それだけで美里に伝わるのか? というのは分からないが、俺は俺で美里にそう伝えるのだ。

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