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ー未知ー195
俺のそんな表情に、雄介の方も困ったような顔をしていたように思える。そして、ついでに俺の表情を読み取ったであろう雄介は、
「ま、姉貴の言いたいように言ったら、ええねんと違う?」
と半分以上投げやりな感じで言った。
確かに俺は「どうでもいいよ」という顔をしていたのだけど、きっと美里は本気で考えていたのだろう。
こういう時の女性というのは、そういうところで本気で悩んでいるんだと思う。それに、俺が嫌がれば、それをしない女性の方が多いのだから。
とりあえず俺は少し考えて、
「美里さん、俺は『望さん』でいいですよ」
と笑顔で答えることにした。
「じゃあ、望さんにしますね」
と微笑みながら答えてくれる美里。
そういうところは、本当に全くもって怖さを感じないのかもしれない。
「そういやさ、この前、琉斗のこと、スーパーで見かけたんやけど、めっちゃかっこ良くなってたやん……久しぶりに見たら、こっちは全然分からんかったけどな……ほら、俺たちって、琉斗がまだ保育園に行ってる時に会ってるしなぁ」
その話を美里にしながら、俺の方にもその話を振っているようだ。
雄介は美里と俺のことを交互に見ていた。
「あ、ああ……そうだったな……。確かに、パッと見では分からなかったよなぁ? むしろ、向こうが声を掛けてきたくらいだしな」
「そうそう! そうなんやって!」
二人でこう興奮気味に話をしていると、
「そうよねぇ、琉斗は立派な子供に成長してきていると思うわぁ……。もう、優しくて、何でも手伝ってくれて……ある意味、理想の旦那さんっていう感じなのかしらねぇ?」
「……へ? まさかと思うけど……無理矢理とか手伝わせてへんやろな?」
そんなちょっと疑う感じで言う雄介。
さっきの緊張感はもう漂ってないように思える。本当の兄弟のようにこうワイワイガヤガヤという感じなのだから。
「もう! そんなこと、私がしてるわけないじゃない?」
「あ、いや……姉貴なら……なぁ?」
そこは怒られるのが怖くて、雄介は小さな声で突っ込んでいるようにも思える。
そんな雄介の姿にクスクスとしながらも、俺は雄介たち兄弟の話を聞いていた。
今まで雄介たち兄弟間での話はあまり見たことがなかった。まぁ、そんなに話す機会が少なかったからなのかもしれない。それでも、こうしてプライベートで話す二人は、仲が良さそうな気がする。
確かに雄介は美里のことを苦手だと言っているけれど、本当に苦手なら、きっと代理出産なんて頼むことはないのだから。
本当に仲の悪い兄弟なら、たとえ連絡先を知っていても普通は一年も二年も、いや、本当に必要な時以外は連絡さえしないだろう。
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