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ー未知ー205

 先程は頭が痛いと言って薬を飲んだ雄介だったが、病院の薬なのだから、早く効いてきたみたいで、そこに安心する俺。でも、まだ完全に安心したわけではない。まだあくまで一時的なものだ。  あの船が転覆した日。雄介はどれだけ海の中を漂っていたのだろうか。俺からしてみたら、雄介が行方不明になってからの空白の二十四時間がある。  船が転覆してから、翌日のお昼過ぎくらいまで帰ってこなかった。  俺たちはあんなに雄介のことを心配していたのに、島の学校にヘリで戻ってきた雄介は、当たり前のようにケロっとしていたようにも思える。  そして俺はあの時、雄介に初めて言った言葉が『愛してる』だった。  今まで雄介には『好きだ』と言ったことはあるが、『好き』以上の『愛してる』は言ったことがなかった。『愛してる』という言葉は、『好き』以上に深く、そして大事な人にだけ言う言葉だと俺は思っている。それを伝えたかったのが、雄介だったということだろう。  本当に俺が今生きている中で、『好き』になったからこそ、雄介にはそう言っていた。  俺が色々と考えていると、雄介が、 「ご飯できたでー」  と俺のことを呼んでくれるのだ。  そんな平凡なことさえも今は平和に感じてしまうのは、きっと俺たちの中では今までが今までだったからだろう。  その雄介からの言葉に、俺は、 「……おう」  一歩間を置いて返事をするのだ。  こんな小さなことでも今は幸せに思える。逆に言えば、この幸せな時間がもっともっと続きますように、なのかもしれない。  そう、俺たちの幸せというのは、ただただ何事もなく平和で幸せでいられることなのだから。 『いただきます』の後に、いつものように会話を始める俺たち。 「な、婚約指輪は、いつ取りに行くんだっけ?」 「来週って、言っておったような気がするわぁ……」 「あ、そっか……」  そこでとりあえず納得する俺だったのだけど、今度は雄介の方が俺の方へと乗り出してきて、 「ほなら、その日は、展望レストランとかに行って、久しぶりにブランドもんのスーツ着て、ご飯しようか?」 「え? あ、あー……」  その言葉に俺は、恥ずかしくなったからなのか天井の方へと視線を向けてしまう。  まさか婚約指輪ついでにデートになるとは思ってなかったからなのかもしれない。それにその展望レストランだって、一応、俺たちからしてみたら、思い出の場所だからなのかもしれない。  そうだ。俺たちが初めて食事した場所でもあるのだから。だけどその場所では、雄介のせいで喧嘩してしまったというのか、勘違いで喧嘩みたいなことが起きてしまった場所でもある。

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