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ー閃光ー4

 マンション住みとなった俺たちの部屋というのは、玄関を入って、左側に寝室があって、右側にお風呂やトイレがあって、さらに奥の部屋へと来ると、右側にキッチンがあり、そこにはリビングがあって、リビングの横には二つのドアがあって部屋が二つあるのだ。今まで以上に俺たちが住んできた部屋からすると狭い感じはするものの、二人で住むのなら十分過ぎるくらいだろう。  とりあえず琉斗にはソファへと座ってもらって、キッチンから雄介は琉斗と俺たちの分の麦茶を持ってソファへと戻って来るのだ。 「ほんで、姉貴とどないしたん?」  どうやら雄介の中では、琉斗がここに来た理由っていうのは、美里と断定しているらしい。  だがそれはどうやら間違っていないようで、琉斗はソファで俯き、そして語り始める。 「もうさ、お母さんが、本当に、めんどくさい……」  その思春期特有の『親がめんどくさい』発言に、雄介と俺は視線を合わせてクスリとするのだ。  だがそこは琉斗には聞こえないくらいに小さな声だったのかもしれない。  そう、そこはもう誰もが通って来る道であって、要は琉斗だけじゃない悩みだからなのかもしれない。 「ま、そうやろな? だって、そこは、俺たちも通って来た道やし……すごい、琉斗の気持ち分かるで……。しかも、あの姉貴やもんなぁ……むっちゃ、琉斗の気持ち分かるわぁ……」  本当に雄介の場合、その人の気持ちになって言っているのか、オーバーリアクションというのか、心から気持ちを込めて言っているような気がする。そうやって雄介の場合には、相手の心を開かせるのだろう。そして雄介は絶対に相談相手を馬鹿にしないところもまた良いところなのかもしれない。それに雄介は小児科医だ。もちろん小児科というのは、十八歳くらいまでは診ているのだから、思春期の子供なんかも完全なストライクゾーンということだろう。しかも甥っ子となると、もっと琉斗の気持ちが分かるのかもしれない。 「そうなんだよねぇ……毎日のように、宿題やれとか……家事手伝ってよ……とかって、僕だって忙しいのに言ってくるんだもん。本当に疲れてくるんだよね」 「そやなぁ……しかも、キツい感じで言ってくるから、もっと、めんどくさいんだよなぁ。そこに、ちゃんと理由みたいに言うてくれたら、きっと琉斗も手伝う気とかやる気とかに繋がると思うねんけど……。あー、あの、姉貴じゃ、そこまで考えてへんやろなぁ……」  と今度は雄介も顔を俯けてマジで考え込んでしまったようにも思える。  そんなオーバーリアクションな雄介に、俺は感心しつつも、これからこの二人の行方を観察していくつもりだ。

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