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ー閃光ー7

 その雄介の言葉に、琉斗の目が見開かれたようにも見えた。今の雄介の言葉が確実に琉斗にも届いたということなのだろう。 「……ぅん!」  少し間を置いて、大きく頷きながら返事している琉斗。  俺たちは琉斗とは、琉斗が保育園だった頃に会って話をした以来だったのだけど、俺たちがここに戻ってきて、琉斗の家のアパートの隣のマンションに住んでから、琉斗が雄介に相談しに来たのは初めてのことだ。だけど思春期のわりには琉斗は雄介に対して警戒していないところを見ると、小さい頃の記憶がまだあるということなのだろう。そうでなければ、こんな風に雄介のところには来ないのだから。  しかし今さっきの雄介のアドバイスには再び驚かされた。まさか琉斗の相談事にあんなに的確に答えるとは思っていなかったからかもしれない。  確かに雄介の言う通りだ。『親に負けるとか勝てる』とかっていう問題ではない。思春期というのは、自分の意見をちゃんと親に言って、言い合える仲というのがいいのだから。それは確かに喧嘩ではないだろう。喧嘩ではないのだから、勝ったとか負けたとかいうのはない。ただ意見を言い合うだけということだ。それを琉斗は喧嘩と勘違いしているだけなのかもしれない。それに思春期特有の反抗期もいずれ終わりを迎えるのだから、それまでは親子での言い合いということだろう。 「あー、ほな、琉斗……もうお昼だし、何か食べてくか? そんでも、まだ自分の家に帰るの嫌なんだろうしな……」  そう言って席を立つ雄介。  この家に来てからは、完全に雄介の方は専業主夫となったのだから、食べ物の方は潤っている。  そして雄介は冷蔵庫の中を覗いて、 「好きなもん言うてくれたら、なんか適当に作るで……」  そうキッチンの方から、琉斗に声を掛けている。だから俺は琉斗に、 「雄介が作る料理だったら、何でも美味いから、雄介もああ言ってるわけだし、何かリクエストしてみたらどうだ?」  そう俺は琉斗の耳元でアドバイスするように言う。  これから琉斗とは親戚になるのだから、仲良くしておいた方がいいだろう。 「え? そうなんですか?!」  とまだ俺には敬語を使っていたが、そこは仕方がないところなのかもしれない。そして俺は琉斗のその言葉に頷いた。 「えー、じゃあ……? 小さい頃、雄介おじさんに作ってもらった……お子様ランチ?」  『お子様ランチ』で思い出した。確かに琉斗を一時的に預かった時に、雄介が琉斗に作ってあげていた料理でもある。琉斗もきっと雄介だから懐かしく思って、それをリクエストしたのだろうし、もう琉斗くらいの年になると、ファミレスに行ってもお子様ランチなんて頼めないからだろう。

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