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ー閃光ー15
さらに琉斗の表情が明るくなったように思える。
本当に雄介には感心しかない。
雄介が医者になるって散々話し合っていた時には、俺と働きたいだけという理由だけで医者になりたいという不純な動機でいたような感じがあったけど、今ではもう小児科医としては十分すぎる程の医者だろう。
それに、完全な思春期と反抗期な琉斗の心をここまで明るくしたのだから、やはり雄介は凄いんだと思う。
確かに琉斗の立場に立ってみれば、今回の件についてはそうなのかもしれない。それを琉斗にも分かりやすいように説明してくれる雄介。そして琉斗の方は完全に今の雄介には心を開いてくれたということだろう。
それにそれを聞いてからの琉斗というのは、ずっと笑顔なのだから。
だけど、ここまで話をして、逆に沈黙が流れてしまっている。きっと話し合いも終わり、どうしたらいいのかが分かっていないのかもしれない。
そう、どちらかが「帰る」というワードを使わなければ、なかなか帰るってことはできない空気ということなのであろう。
「あー、じゃあ、そろそろ……俺、帰った方がいいかな?」
「まぁ、別に、俺ら的には、全然居ても構わないんやけどな……」
その琉斗の言葉に、雄介の方は本気で「まだ、居ても大丈夫だよ」と言っているようだ。
そう、人によっては「まだ、ここに居ても大丈夫だよ」と言っておきながら、内心では「早く帰って」と思っている人もいるのだから。
俺の方だって、別に琉斗がここにまだ居ても構わないと思っている方だ。
だから俺の方も言葉にはしないものの、笑顔を琉斗へと向けるのだった。
「あー、でも、ホンマ、姉貴は口うるさいねんやろ?」
急に雄介は一番初めに話をしていたことを琉斗へと振るのだ。
「まぁね……。どうして、お母さんって、あんなに口うるさいわけー?」
「そこは、もう、性格なんと違うの? 俺だって、小さい頃もやけど、今も姉貴には押されまくっておるしなぁ……」
と半分はため息混じりに話を始める雄介。
俺の方は雄介のその言葉に吹きそうになる。確かに、そうなのかもしれない。
雄介が美里には勝てないのは知っている。だからこの前話し合った時もこう憂鬱そうにしていたのだから。
「それに、琉斗には母親としてっていうところもあるんかな? そこは、勝つとか負けるとかじゃなくて、親としてしっかりしてないとならないっていう気持ちがあるからなんじゃないんか? 母親ってそういうもんやしな。もし、琉斗が学校で何かあった時に、姉貴は琉斗の為に何かしてくれるやろ? それに、姉貴の場合には旦那さんがいないから余計に自分が踏ん張らなきゃって思うから、強くいようとしている時だってあるんだと思うで……」
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