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ー閃光ー25

 それから数ヶ月が過ぎると、美里のお腹も目に見えて大きくなってきた。  どうやら定期検診の際は、雄介が車を運転し、美里を病院へ連れて行っているようだ。  その時には、俺も一緒に産婦人科へ行き、診察の説明を聞いていた。  もうお腹の中の赤ちゃんは五ヶ月目だ。  あと一ヶ月もすれば、さらに美里のお腹が目立つようになり、赤ちゃんも元気よく動き出すだろうという話だった。  今回のエコーでは、赤ちゃんがあまり動いてくれなかったため、性別はわからないまま診察が終わった。しかし、赤ちゃんが元気に育っていることが確認できたので、それで十分だろう。男の子でも女の子でも、俺たちはこれからしっかりと育てていかなければならないのだから。  俺は仕事があるので病院を後にし、雄介と美里は帰宅する。  本当に今が幸せすぎて、俺は廊下で鼻歌を歌うくらいだ。  俺は基本的にクラシック音楽しか聞かないが、それでも数年前に流行った曲を歌っていたかもしれない。  そんな俺を見た廊下で会った看護師に、 「今日はやけに、吉良先生、機嫌がいいですねぇ」  と言われつつ、自分の部屋に戻る。  その途中、ナースステーションを見かける。  そこで、今一緒に働いている看護師たちが忙しそうに働いている姿が目に入る。  和也とは違って、異常に真面目で、俺からすると何かが足りない気がする。  確かに和也は騒がしい奴だったけど、それがなくなってから、俺は気づいたのだ。恋人も大事だけど、友達も大事だということに。 「あ! 吉良先生、戻って来られたんですか?」 「ああ……まあな……」 「では、私の仕事が終わりましたら、部屋に戻りますね」 「ああ……」  そんな普通の会話を交わして、俺は自分の部屋へ向かう。  この部屋は昔と変わらず、四階の一番奥。まだコンビの看護師と一緒に過ごす部屋だ。  部屋に戻り、電気をつけても、何だか前より暗く感じる。  和也がいた頃とは違う感じがするのは、気のせいだろうか。  そうだ、和也がいた頃は、彼が適当だったせいか、ソファの背もたれに洋服がかかっていたりして、生活感があった。しかし、今の看護師はそういうことがないので、部屋に戻っても何かが違うと感じるのだろう。  そう思いながら、ため息をついた。

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