744 / 854
ー閃光ー32
雄介に言われて、確かに今この時は幸せな時間なのかもしれない。
本当に今まで毎日のように仕事に追われていたから、こうして毎日家でゆっくりと食事ができることが、こんなに幸せな時だとは思っていなかったのだろう。
この後は、ゆっくりとお風呂に一緒に入って体を休ませるだけだ。
俺は流し台にお皿を置いた後、お風呂場へと向かう。
そう、今度はお風呂に入る番だ。
お風呂の準備が終われば、あとはお湯を溜めてからお風呂場へと向かう。
本当に最初の頃は雄介とお風呂に入ることさえ躊躇っていたのに、今では躊躇いもなく一緒に入れるようになった気がする。
そして、いつものようにたわいもない会話をしながらお風呂から上がり、今度は寝室へと向かう。
その途中、雄介が、
「ちょ、スマン……」
そう言って急に廊下でうずくまる。
「……え?」
先を歩いていた俺は、その雄介の声で後ろを振り向く。
「どうした?」
俺もしゃがみ込みながら雄介に言う。
「あ、いや……な、何でもあらへん……」
その言葉に一瞬、俺は難しい顔をしたが、
「あのさ、雄介? 前に俺にも話してくれただろ? それに、今の俺たちは夫夫なんだから、何かあったら話すのが当たり前なんじゃねぇのか?」
「あ……そうやったな……あ、あんなぁ……また、頭が痛いねんって……」
「また頭が痛い?! あ! そうか、風呂で逆上せてしまったってことか。なら、ベッドまで早く行こうぜ」
俺はそう言って、雄介の腕を支えながら寝室へと向かう。
「あ、確かに……風呂で逆上せただけなのかもしれへんなぁ……」
そう言って、雄介はベッドに横になる。
さっき廊下では、一瞬冷や汗だかお風呂上がりだかで汗が出ていたように思えたが、ベッドに横になって少し落ち着いたようだ。
「頭痛薬持って来た方がいいか?」
「あ、ああ……そうやなぁ……」
そう反応してくれたので、俺はキッチンの棚の上に常備している薬箱を取りに行く。
薬箱の中に入っている頭痛薬を見つけると、水と一緒に雄介がいる寝室へ持って行く。
頭痛なら薬を飲んでゆっくりしていれば治るだろう。
でも、雄介は確か偏頭痛持ちではなかったような気がする。だけど、人間なのだから、年を取ってくるとどこかしら痛み始めるものだろう。
長年使ってきた体なのだから。
だから俺はそのことをあまり気にしなかったように思う。
そう、これから大変なことが起きるとは誰も思っていなかった。
ともだちにシェアしよう!