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ー閃光ー34

 病院の駐車場に着いて、いつものように車を降り、自分の部屋へと向かう俺。  今日の病院がいつもより静かに感じるのは気のせいだろうか。  いつもなら、ざわめきのような音が聞こえてくるはずなのに、今日はそれがないように思える。  そう、今日は朝からいろいろなことが違う世界に見えてしまっているのは気のせいだろうか。  階段を上がる自分の足音さえも、こうも響いて聞こえているような気がする。  なんだかこれだけ人の気配がないと、自分が今一人でこの世界にいるんじゃないかと錯覚してしまうほどだ。  三階にある自分たちの部屋へと向かう廊下を一人で歩く。  本当に今日はここまで全く人の気配がない。  こんなにもドキドキするなんて、本当に久しぶりだ。  でも、なんで今日はこんなにもいろいろなところが静かなんだろうか。  そして自分の部屋に入ると、そこに美潮がソファに座って待機している姿が目に入ってくる。  やはり真面目な性格なのだろう。  こうして早く来ているのだから。  これが真面目じゃない人間なら、遅刻は当たり前なのだから。  なぜか俺はそこに安心し、胸を撫で下ろすと、 「おはよう」  と美潮に声を掛ける。 「おはようございます」  と言ってくれる美潮に、当たり前のことではあるが、安心したような気がした。  そう、朝の出来事があまりにも静かすぎたので、一瞬、俺一人だけの世界に行ってしまったのかと思ってしまっていたのだから、人と話せたことにきっと安心できたのだろう。  そして俺はロッカーへと向かう。  いつものように着替えて、ピシッとした白衣を着ると、スイッチを入れ替える。  その後もいつものように仕事をこなし、今日は朝起きてこなかった雄介にお昼休みになると電話をする。  何回かのコールの後、電話に出てくれた雄介は、いつもと変わらない様子で、そこにも安心する俺。  こうして何年ぶりだっただろうか、屋上から雄介に電話をするなんてこと。  あの時代は和也たちがいて、たまに屋上であの和也と裕実のカップルに会っていたのを思い出す。  そこで電話していると、そこに現れたのは、新城と実琴のようだ。 「吉良先生も屋上に来られてたんですか……」 「あ、新城先生と……?」  新城の隣にいる人物を目を凝らして見てしまった俺。  それに新城は気づいたのか、 「え? 吉良先生……私の恋人の実琴のこと、忘れてしまいましたか?」 「あ、いや……それは、大丈夫なんですけど……。やはり、実琴さんと裕実は双子だけあってか、今一瞬、裕実と見間違えただけですから……」 「そうでしたか……。吉良先生はどうされたんです?」

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