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ー閃光ー35

「あ、いや……雄介と電話していただけですよ……」 「じゃあ、今からは私たちがここを使ってもいいんですよね?」  そう新城は意味ありげに聞いてくる。何だか、その意味ありげな言葉に一瞬たじろいでしまったのは俺の方だ。 「え? あ、まあ……どうぞどうぞ……」  それに新城の身長は雄介並みにある。だから責められると、俺の方が引いてしまうほどなのだから。  俺はそそくさと屋上を後にする。  きっと新城と実琴のことだから、休み時間を使って、新城は実琴のことを抱くんだと思ったからだ。  屋上とはほとんどの場合、スタッフしか来ない場所であり、患者さんが一人で来ることはあまりない場所でもある。要は、スタッフからすれば誰にも見つからないような穴場みたいな所なのだから。  それに、俺は雄介と連絡が取れたので安心し、さっさと部屋へ戻る。  もしあの二人が本当にその場所でやりだしたら、困るというか、他人のを見るような趣味は俺にはないのだから。もし、その場にいたのが雄介や和也だったら、他人のでも見たいと思うのだろうか。  後は午後から診察をして、五時にそれを終えて帰宅するだけだ。  そう思うと、何だか嬉しくなってくる。そう、もう少し頑張ったら、雄介に会えるのだから。  要は、後半日の時間を「もう少しで終わる」と思うのか、「まだ半日もある」と思うのかで気持ちが違ってくるということだろう。  だが俺の場合は「もう少しで終わる」という気持ちでいるのだ。  ポジティブに考える方が人間、前向きに生きられる。  そりゃ人間だからネガティブな気分になってしまうこともあるけれど、一度きりの人生なのだから、やはりそこはポジティブに生きる方がいいだろう。そうすれば心も軽くなるのだから。  それからはいつものように美潮と仕事をこなし、仕事が終わると、部屋に戻って掃除の時間となる。  今日の俺は、もうやることがないからなのか、美潮とさっさと掃除を終わらせると、 「よーし! 今日は終わり! 美潮君、今日はもう帰っていいからな」  仕事が終わった後の俺は、本当にご機嫌だ。  だってもうすぐ旦那さんに会えるのだから楽しみで仕方がないのだ。  確かに俺たちは夫夫になったのだけど、同性同士の結婚の場合、パートナーと言ったらいいのか、それとも旦那さんと言った方がいいのだろうか。そこは分からないところなのだが、とりあえず俺もロッカーへ向かい着替え始める。  やはり仕事を終えた後は、鼻歌を歌いたくなってくる。  だがそこへ美潮が着替えに入ってくる。

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