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ー閃光ー47

 そこで俺は考える。  標準語で話す雄介に、「美里」という名前に全く記憶が無さそうな彼の様子。  ここまで来ると、もしかしたら……という思いが俺の頭をよぎる。 「なぁ、雄介……俺の名前、知ってるか?」  一応冷静を装いながらも、俺はごく単純なことを尋ねてみた。 「あー、君の名前ねぇ……?」  半身を起こした状態で、天井を見上げて考え込んでいる雄介。その様子を見ると、自分が思った通りかもしれないと感じた。しかし、まだ確定ではない。最後の一瞬まで、雄介がそうじゃないことを祈りたい。 「あー、んー……まぁ、え? ってか、君は誰ですか?」  逆に質問されてしまった俺。  ベッドの端を両手でがっちり掴んで、俺はその場に立ち上がる。  今の俺の感情は、雄介を目の前にして、ぐちゃぐちゃになっているのかもしれない。もっと早くに検査しておけば良かったと後悔しても、もう遅い。  一瞬、目に涙を溜めたが、この状況は現実なのだから、俺が何とかしなければならない。頼れる人はいない。  もし数ヶ月前のことだったら、まだ和也や裕実に頼ることもできたかもしれないが、今は俺と雄介の我儘で作ってしまった状況だ。自分たちで何とかしなければならない。  まず、この病院内にいる美里に、雄介の状態を知らせなければならないと思った俺は、 「雄介……ここで、ちょっとだけ待っててくれないか?」 「あ、ああ……ここで待っていればいいんですね」 「おう……」  俺がそう言うと、一瞬首を傾げた雄介から離れ、急いで美里がいるであろう場所へ向かう。  しかし、診察を終えた美里は今どこにいるのだろうか。しかも俺が美里から離れてからどれくらいの時間が経ったのだろうか。今の俺には時間感覚がまるでない。  俺は自分たちの部屋から、階下にある診察室前のソファ、そして会計の場所まで、美里を探し続ける。  若干走ってきたせいもあるが、雄介がああなってしまったことに動揺し、呼吸が乱れる俺。美里を必死に探す。  すると、美里はまだ会計に留まっていてくれた。会計には多少時間がかかるからか、その場所にまだ居てくれたことに、俺は安心した。 「み、美里さん!」  いろいろな感情が入り混じり、大きな声で美里の名前を呼んでしまった。

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