761 / 854

ー閃光ー49

 それからすぐに美里が俺のいた場所へ戻ってきて、俺の背中を押しながら、 「と、とりあえず……私も雄ちゃんがいる所に行くので、案内してもらえます?」  と言った。本当に美里という人間は、心強いというかメンタルが強いというか、案外俺よりもメンタルが強いのかもしれない。  流石に雄介の状況を聞いたときには、一瞬動揺したように見えたが、今では既に冷静さを取り戻している様子がうかがえた。  俺はとりあえず美里を連れて、俺たちの部屋へと案内することにした。  さっきいた待合室とは違い、こちらの棟は本当に静かで、俺たちが廊下を歩く音が響いて聞こえるくらいだった。  先に自分の部屋へと入ると、美里を部屋の中へと招き入れる。  そして、そこにいたのは美潮だった。 「あれぇ? どうしたんです? 一般人の方は入室禁止のはずでは?」  美潮は本当に真面目な人間なのだろう。この棟では確かに一般人の入室は禁止されているのだが、今はそのルールに従っている場合ではない。 「とりあえず、今は緊急事態だから、後でこのことについて話すから、静かにしてくれないか!」  そう言ったときには、俺は自分の口から強い言葉が出ていることに気づいた。そんな俺の迫力に動じたのか、美潮はすぐに黙ってしまった。  それから俺は美里を寝室の方へ案内した。  そこには、まだ雄介がベッドの上で座って待っていた。 「雄ちゃん?」  と美里が声をかける。  その言葉に反応したのか、雄介は美里の方を見上げた。  どうやら美里は、雄介が名前に反応してくれたことに安堵したようだ。 「なんだ……望さん、雄ちゃん、大丈夫そうじゃないですか?」  と安心したように言ってきたが、 「すみません……今の雄介の反応は、美里さんが名前を呼んだから反応しただけで、名前自体に反応したわけではないと思います」  と俺は冷静に分析して言った。 「雄介、この女性のことを覚えているか?」  俺がそう言うと、雄介は美里へと視線を向けた。  しばらくして、雄介は首を傾げ、 「……わからないですね」  と標準語で答えた。いや、むしろ敬語と言った方がいいのかもしれない。  流石に美里がそれに気づかないわけがない。特に美里と雄介の関係は兄弟だから、関西弁を使う間柄なのに、それが出ないことに違和感を覚えたはずだ。  そこで俺と美里は視線を合わせた。  これでやっと美里にも、雄介が今記憶を失っていることが伝わった。 「本当に、雄ちゃんは、そんな状態だったのね……」

ともだちにシェアしよう!