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ー閃光ー55

 だが、珍しく裕二は俺からの電話に出てくれた。というか、むしろ俺だからこそ出てくれたのかもしれない。 『どうしたんだい? 君から電話をしてくるなんて珍しいんじゃないのかな?』 「あー、ちょっと、親父! 緊急事態なんだ! 雄介がさ、記憶喪失になっちまったみたいで、今からその検査っていうのか、一応、MRIで検査してみようと思ってんだけど……俺の方は外科担当であって、脳外科の方は、まだ、ちょっと得意じゃないからさ……一緒に診て欲しいんだけどなぁ」 『そういうことだったのかい……まぁ、そこは別に構わないのだけど……。雄介君が記憶喪失になったってことでいいのかな?』 「ああ、多分な……俺の記憶も無いし、むしろ、美里さんとの記憶も無いし、過去の記憶も無ければ、言葉も敬語になっちまったしさ……」  その俺の言葉に裕二は何か考えているのか、少し言葉が発されるまでに時間があったような気がした。 『……分かった。私の方も、一応、君たちの関係者ではあるからね。望と一緒に雄介君のことを診てあげよう……』 「じゃあ、MRI室の方で待ち合わせでいいんだな?」 『じゃあ、そこで……』  そう言うと、ほぼ二人同時くらいに電話を切るのだった。  それで気持ち的に安心した俺。  確かに、雄介の今の症状っていうのは、完全に表向きには記憶が無いっていうのは確かだ。だが、どういった理由でその記憶が無くなってしまったのかっていうのが分かっていない。  あの雄介が船の事故で救助に行って俺の元へと帰って来てから、ずっと今まで不安になっていたことが今、現実になりつつあるということなのだろう。  あの時、一応すぐに病院へと行ったのだけど、まだその時はあまり酷くはなく、ここ最近頭痛が酷くなって来たことが気になっていたのかもしれない。  頭痛のことは気にはなっていたのだけど、まさか記憶を失くすまでのことだったとは思ってもみなかった。  いや、俺の考えが甘かったというべきなのか。  そう、俺は考え事をしながらMRI室へと向かっていたのだから、美里もそんな俺に気付いてくれたのだろう。静かにしていたのだから。  MRI室の前まで来ると、そこにあるソファへ雄介を座らせた。  そこに、この病院のどこに居たのかは分からないが、気持ち的に急いだ様子で裕二もこの場所へと現れた。  少し走って来たのだろうか、呼吸が乱れていた。 「雄介君は大丈夫なのかい?」 「まぁ、とりあえず、見た目は大丈夫なんだけどよ……話してみればいいんじゃねぇのか?」  と俺は相変わらず、親である裕二に対して突き放すような感じで言ってしまうのだ。

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