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ー閃光ー62
その雄介の言葉に、俺は、
「ああ、いいよ……」
と返事をし、昔作ったオムレツを作り始める。
もしかしたら、少しでも思い出の品を出していけば、記憶を取り戻すかもしれないと思ったからだろう。
いつかテレビドラマか何かで見たことがあったようにも思える。
記憶を失くしてしまった人物と生活をするには、今までと全く同じ生活を続ければいい、ということをだ。
とりあえず、俺は料理を作り始めるが、久しぶりに料理をしているせいか、それとも雄介が記憶喪失になって動揺しているからか、卵の殻を割る時に加減を忘れてしまっていた。気づくと、ボウルの中に卵の殻が入ってしまっていた。
そこに、ため息をつく俺。
いや、むしろパートナーが記憶喪失になって動揺しない人間なんて、そうそういないだろう。動揺するのが当たり前なのだから。
とりあえずなんだかんだで料理を作り終えると、俺はリビングテーブルへ料理を運ぶ。
すると、時間はもう既に九時から十時の間になっており、再びため息をつく俺。
いつもなら、俺が早く帰ってこれた日は、八時にはまったりできていたかもしれない。
自分の家事の出来なさに自己嫌悪を感じる。
リビングテーブルに料理を運んでから、正面同士で席につく。
「じゃあ、雄介……ご飯、食べようか?」
「そうですね……。私のためにご飯まで作ってくださって、ありがとうございます」
そこまで言うと、雄介は手を合わせ、
「いただきます」
と言った。
そこは何だか雄介らしいところなのかもしれない。記憶喪失だからといって、何もかも忘れてしまったわけではないようだ。これまで日常的にやってきたことは覚えているらしい。
記憶喪失にも色々な種類があるようで、雄介の場合、日常生活には支障がないだけなのかもしれない。なら、もしかしたら家事もできるかもしれない。
これからお風呂にも入らなきゃいけないし、そこはまだ個人で入ることにしよう。でも、もし日常的なことができるなら、本当に家のことは雄介にやってもらいたいところだ。
そこで俺は再び息をつく。
しかし、雄介がそんな状態だと、食事中の会話すらままならない気がする。そして、
「ごちそうさまでした」
という声と共に、雄介は食事を終えた。
俺も雄介に続いて、食事を終わらせる。
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