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ー閃光ー63

「雄介……先にお風呂に入ってきていいぞ……」  そう言って、俺は雄介をお風呂場へと案内する。  そこにひと息吐く俺。  雄介が出てくるまでソファでのんびりしていた俺だったが、気持ち的に少しリラックスできた状態だった。だからこそ、ふと、思い出せたのだろう。 「あ、電話……」  そう言って、俺は自分のスマホを手にすると、カーソルを和也へと合わせ、電話をかける。  何回かのコール音の後に、 『え? 望からの電話なんて、本当に珍しいよな? で、用事はなんだ?』  なんだか和也の声に安心してしまっていた俺。再び瞳に涙が溢れたが、それを飲み込み、 「あ、あのさ……」  と俺が暗い声で話し始めると、和也は何かが起きていることを察知したようで、 『どうしたんだ? 何があったんだ? キツいことなら話した方が楽になると思うぜ。それに、本当に望から俺に電話してくるなんて、滅多にないんだからな。よっぽどのことがあったんじゃねぇのか?』  さすが、そういうところ敏感な和也だ。俺の声ひとつでそこまで気づくのだから。やはり何かあった時、和也という人物は頼りになる。 「あー、えーとさ……」  と俺が和也に話をしようとした直後、雄介に呼ばれたような気がした。 「すみませんが、私のパジャマはどこにあるんでしょうか?」 「あ……」  その雄介の言葉に、俺は、完全に雄介のパジャマを渡すのを忘れていたことを思い出し、一旦スマホをスピーカーのままでテーブルに置いて離れる。雄介がいるであろうお風呂場へ向かい、いつも雄介が着ている短パンとTシャツを持っていく。  今の雄介には、そこまで世話しないとわからないのだから仕方がない。  とりあえず俺はそれを渡すと、再びスマホを置いておいたソファへ戻ってくる。 『え? 雄介がどうしたんだ? ってか、お前の家にいるの誰だよ……まさか、お前、雄介と別れたのか?』  きっとスピーカーで今の俺と雄介の会話が和也に聞こえていたのだろう。和也からすれば、関西弁じゃない雄介が違う人物に聞こえていたのかもしれない。 「あー、えーと……あのさ、一気に質問されたんじゃ答えるのに時間がかかっちまうんだけどさ……とりあえず、お前には何から話したらいい? まず、俺は雄介とは別れてねぇから、それだけは言っておく」 『あー、んー、じゃあ……お前の家にいるのは誰なんだ?』 「そこは雄介に決まってんじゃん……」 『え? 雄介って、関西弁じゃなかったっけ? だって、今そこにいる奴、敬語だったじゃん!』 「あー、だからさ、今の雄介は記憶喪失だって言ったらわかるか?」

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