776 / 854
ー閃光ー64
その俺の言葉に、一瞬、張り詰めたような空気が流れた気がした。
きっと和也たちも、一同に言葉を詰まらせてしまった証拠だろう。
『……マジでか?!』
やはり、雄介が記憶喪失だということを、一瞬で信じられるわけがない。
それに、和也たちは俺たちの側にいないのだから、余計に驚いたのかもしれないのだから。
「……ああ、本気だ……」
俺がそう言えば、確実に和也は気づいてくれるだろう。
いや、和也たちの場合、俺の言葉は信じられても、ただ単純に雄介がそんなことになったのが信じられないだけなのかもしれない。
俺も和也たちも息を吐く。
『え? あー、でも、俺たちどうしたらいい? もしかして、一旦、春坂の方に行ったらいいのか?』
「あー……それは……別にいいかも……?」
和也からの質問に、俺は疑問系で返してしまった。
きっと俺は、これから先のことなんて考えていなかったからだろう。
『別に、いいかも……ってことは、本当にお前一人で雄介のことや美里さんのこと、それに、もうすぐ子供が生まれるんだろうから、子供のことも全部お前一人で抱え込むことになるだろうけど、そこは大丈夫なのか?』
本当に、そういう先のことなんて全く考えていなかったのかもしれない。
それを聞いただけで、俺の頭は既に混乱しそうだった。
なかなか和也の質問に答えられなかった俺。そこが和也には気になったのか、
『……まぁ、そういうことだよな? 今の望には、誰も支えてくれる人がいないってことだろ? なら、そこは、やっぱり俺たちに手伝わせてくれねぇかな?』
その和也の言葉に、逆に俺が言葉を詰まらせてしまった。完全に黙ってしまったのだから。
『とりあえずさ、一回、診療所は閉めちゃって、そこはもう一度後で立て直したらいいだろう? 確かに、朔望と歩夢でここは十分すぎるほど保ってこれたけど、結局は望や雄介が戻って来なければ意味がないと思うんだよ。それに、ここ診療所は望と雄介の診療所みたいなもんじゃんかぁ……だから、朔望たちで慣れてしまったら、将来的に朔望たちがやっていけばいいんじゃねぇ? って思うからさ。だったら、一旦、俺たちも春坂の方へ戻って、雄介が完全に治ってから、また診療所をやればいいんじゃねぇのかな?』
和也の言葉は、今の俺には痛いほど響いた。
雄介のことで弱ってしまっている俺は、男泣きしそうだ。
とりあえず、そこで飲み込んで、和也との会話を続けることにした。
ともだちにシェアしよう!