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ー閃光ー67

「そこのところは、本当に雄介に任せても大丈夫なのか……?」  そこは若干不安になりながらも、聞きたいところだ。 「そこは、やってみないと分からないところでしょうね……」  その雄介の言葉に、俺は言葉を飲む。まさか、雄介からそんな言葉が出るとは思わなかったからだ。  本能だけで人を抱くということは、ある意味、初めて誰かを抱く人間と変わらないのだろう。  俺は、記憶のある雄介には確かに何十回、もしかしたら何百回と抱かれてきた。だからこそ、それを踏まえて雄介に自分の体を預けることはできる。だが、記憶のない雄介には、初めて男性を抱くかもしれない彼に、この体を預けるわけにはいかないのだ。  それなら、どうやって今の記憶のない雄介に諦めてもらうか……。もしかしたら俺が動くことになるかもしれないが、そんな姿を記憶のない雄介には見せるわけにはいかない。初めての男に、俺のそういった姿を見せるなんてできないからだ。 「ちょ、そこは……やっぱり、無理なのかなぁ……?」  俺は雄介から視線を外しながら話す。 「やはり、そうなんですか……。俺と望さんは、恋人同士以上で結婚している関係ですよね? なら、なぜ体を重ねることができないんでしょうか? そこが俺には分かりません。結婚した者同士なら、体を重ねる行為なんて当たり前だと思うのですが……」  その言葉に、俺はなぜか耳をピクリと反応させる。 「ちょっと待てよ……あのさ、別に結婚した者同士だからって、体を重ねる必要があるのか? そこは、そんなに強く体を重ねる必要はないと思うんだけどなぁ……。今のお前は、悪いけど、そこにこだわりすぎだ。記憶があった頃の雄介は、本当に優しくて、俺が疲れてればそんなことは求めず、結婚してるからって、俺の体を求めることもなくて、ただ俺を大事にしたいって思うだけの人間だった。今のお前を聞いていると、ただ俺を抱きたいと思ってるだけじゃねぇか……。そんなの、俺の知ってる雄介じゃねぇんだよ」  そう言って、俺は無理やり雄介から離れ、お風呂場へ向かう。  これで雄介が反省してくれればいいと思ったのかもしれない。  俺は脱衣所に入ると、ドアを思い切り閉めて、深く息を吐いた。  本当に記憶のない雄介というのは辛い。本当に別人を相手にしているようで、どうしたらいいのか分からないというのが本音だ。  だけど、雄介だって昔、俺が記憶喪失になった時、そんな俺を相手にしてきたのだから、あまり強く言えないのかもしれない。

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