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ー閃光ー70
そして、完全に周りが静かになった頃、和也は電話に出るのだった。
『あ、もしもし? 望ー? もう部屋の方を移動してきたからさ……ってか、今雄介はどこにいるんだ? 望の隣にいるのか?』
「……あ、おう……」
いきなりの和也の声に一瞬びっくりしながらも、俺の方は話を続ける。
「あ、今はちょっと雄介から離れたリビングのソファで話をしてんだけどさ。だってよ、記憶のない雄介ってのは、こう、自分の欲のまんまで動くっていうのかな?」
俺がそう言った直後、和也の方が静かになったのは気のせいであろうか。そして、何でだか、クスッという声が聞こえてくる。その和也の反応に、俺の方はイラっとするのだ。
『あのさ……なんか、確か、お前も記憶喪失の時に、そんな感じだったのを思い出したよ……』
その和也の言葉に、一瞬にして顔を真っ赤にする俺。
そう言われてみれば、前にそんなことを雄介だか和也に聞かされたことを思い出す。
『記憶喪失の人間って、そういうもんなのかな? こう、お酒飲んだみたいな感じになるって言ったらいいのかね? だってよ、お酒飲んだ時って、その時の気分によって泣き上戸になったり、笑い上戸になったり、説教始めたりするだろ? それと、酔った勢いでー、っていう感じでさ……。だから、記憶喪失ってのも、その時の気分みたいな感じになっちまうんじゃねぇのかな?』
その和也の冷静な分析で、なんだか納得できたような気がする。確かに、記憶喪失の人間っていうのは、今までの自分っていうのが完全になくなってしまうのだから、自分が自分じゃなくなる状態だ。お酒を飲んで記憶をなくした時っていうのは、まさしくそんな感じで、記憶喪失状態と同じ状態なのだろう。
「あ……」
そう俺は今の和也の意見に納得してしまっていた。
きっと、その俺の一言で和也も分かってくれたのだろう。
『……だろ?』
と相槌を打ってくれたのだから。
だけど、お酒の場合には次の日には回復しているかもしれないが、本当の記憶喪失っていうのは、いつ回復するのか分からない。そこに、俺はため息が出そうだった。
『とりあえず、望は本当にそれでいいんだな?』
急に和也に問いかけられ、俺は一瞬固まるものの、
「……へ? あ! そういうことなぁ」
と言うと、話を続ける。
「ああ、大丈夫だと思う……。まぁ、若干これからの生活はどうなるのか分からないけど、とりあえず、和也達は春坂に戻ってこなくて大丈夫だからさ……。だから、俺達が島に戻るまで、診療所を守ってて欲しいんだよな」
なぜか、そこは自信たっぷりに言う俺。
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