792 / 854

ー閃光ー80

「どうしたんです?!」  と、俺は急に男性に声を掛けられ、その声がした方向へと視線を向けると、そこにいたのは新城と実琴だった。 「……へ?」  俺はきっと、よく分からない声をあげていたのかもしれない。 「どうしたんです? 吉良先生……」  そう言って、新城は俺の腕を掴んで立たせてくれるのだ。 「あ、いや……何も……」  何だか昔の俺らしい言葉だったのかもしれない。そう、今はだいぶ色々な人に素直になってきたつもりだったのだけど、雄介が記憶喪失になってしまい、精神的にもおかしくなりかけていた俺は、昔のように素直じゃない自分に戻ってしまっていたのだろう。 「顔色、悪いですよ……」 「べ、別に……大丈夫ですからっ!」  構ってくれた新城に、素っ気ない返事をしてしまった俺。  新城と実琴は顔を合わせ、ため息をついていた。  さっきまで新城や実琴にすら素直に話していたはずなのに、今の俺は本当に素直ではなかったように思える。 「見たところ、肉体には異常はないようですので、きっと精神の方がやられてしまっているのかと思います。さっき、私たちと話していた時は普通に話していたのに、今ではそんな素っ気ない態度を取られているということは、桜井先生のことで精神的に限界がきているんだと思います。今日はご帰宅された方がよろしいのではないでしょうか?」  俺は何故か首を横に振ってしまう。  そんな態度を取る俺は、本当に小学生以下かもしれない。  そう、完全にわがままな俺だったのだから。 「では、何故、家に帰りたくないんですか? 吉良先生にとって大事な桜井先生が待っているのでしょう?」  俺が新城の言葉に黙っていると、実琴が、 「吉良先生は家に帰りたくないんじゃないですか? もし、颯斗が記憶喪失になってしまったら、今までいた颯斗はいなくなってしまうんですよね? それじゃあ、他人と一緒にいるのと同じようなものですから」 「あ……」  実琴に言われ、新城も気付いたのだろう。そこで納得したのか、 「でも、今桜井先生を吉良先生が見捨ててしまったら、誰が桜井先生を支えてあげることができるんですか? 誰ももう桜井先生を支えてくれる人はいないと思いますよ。今、桜井先生を支えられるのは吉良先生しかいないんですから、ちゃんと支えてあげてくださいね」  そう言って、新城は笑顔で俺に向かってくれた。  何だかその言葉に気持ちが少し安心できたのは気のせいだろうか。 「それに、もし桜井先生の記憶が戻った時、目の前に吉良先生がいなかったら、寂しくないですか?」  その言葉を聞いて、俺は思い出す。  俺が記憶喪失から元に戻った時、目の前にいたのは和也だった。そう、その時雄介はレスキュー隊の訓練に行っていたので、いなかったのは当然だったのだが、それでも寂しかったのを覚えている。

ともだちにシェアしよう!