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ー閃光ー81

「あ……」  俺はそれを思い出し、気がついた時には新城の顔を見上げていた。 「……ですよねぇ」  そう言って、新城は笑顔で俺を見つめてくれる。  やっとその言葉に、俺の心は救われたのかもしれない。  確かに、俺が前に記憶を失くした時、雄介は俺の元から逃げてしまって、後悔していると言っていた。もし、俺がここで雄介から逃げてしまったら、きっと雄介が記憶を取り戻した時に後悔するだろう。それを避けるためには、今の記憶の無い雄介に俺が一人で向き合って、頑張っていくしか道はないのだから。 「とりあえず、吉良先生の愚痴は私達がいくらでも受け入れますから、そこは協力させてくださいね。でも、桜井先生と本気で向き合えるのは、結婚している吉良先生しかいないんですから……」  その新城の言葉で、希望が見えてきたような気がした。今まで暗かった俺も、少し明るさを取り戻せたように思える。  まさか新城がここまで俺に手を差し伸べてくれるとは、思っていなかったのかもしれない。これまでは、俺の周りには和也がいてくれたから、新城は特に俺に手を差し伸べることはなかったのだろう。しかし今は、雄介も和也もいないし、朔望たちもいない。そんな状況を察して、新城は俺に手を差し伸べてくれているのだ。それに、和也からすれば、新城は苦手な存在だったのかもしれないが、俺にとっては、同じ外科医として何度も話をしてきたから、わりと身近な存在だったのかもしれない。  俺はひと息ついて、 「仕事しないとなぁ!」  と、気合いを入れる。 「それより、吉良先生、どうしてこちらに来られたんです?」  新城にそう問われ、俺は一瞬にして我に返る。 「あっ! そうだった! 俺、トイレに来たんだって忘れてたぜ」  そんな俺の独り言に、新城はクスリと笑う。 「やっぱり、吉良先生って、仕事以外の時は、どこか抜けてますよね?」  それを聞いた瞬間、俺の顔は一気に赤くなった。 「と、とりあえず、いいからここを出てってくれねぇかな?」 「え? いいじゃないですかぁー。だって、ここには男性しかいないんですよ」  新城は俺の耳元に顔を寄せて、 「それに、さっきの私達の声、聞いちゃってるんでしょう? もしかして、吉良先生、それを聞いて、中が疼いちゃったんじゃないですか?」  その言葉に、俺はさらに顔を真っ赤にする。むしろ、その言葉に発狂しそうになったくらいだ。 「ちょ、ちょっと! マジでいいからさぁ……俺は人に見られるのが苦手なんだよ……!」  そう言って、俺は新城と実琴をトイレから追い出したのだった。

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