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ー閃光ー82
本当に俺は、誰かがトイレに入っていると、トイレをするのが苦手だ。逆に知り合いだと、もっと苦手になる。だから、あまり人が来ないような場所のトイレに来たはずなのに、先にいたのは新城たちだった。
いや、何故新城たちはここにいたのだろうか。さっき食堂にいたときには、屋上に行くと言っていたはずだ。
一応、俺はトイレを済ませてトイレを出ると、何故か新城たちはまだトイレの前にいた。
俺がトイレを出ると、再び新城と視線が合う。
「……ん?」
俺は気付いた時には、顔を上げてしまっていた。
「ん? ここで何してんだ?」
「別に……吉良先生は先程、確かに私たちをトイレから追い出しましたけど、私たちは『戻る』とは言ってませんからね」
「あ……」
やはり新城は言葉巧みなのかもしれない。そうだ、あの和也よりも言葉の回転が早いからなのか、すぐに言葉を返してくる。
「ま、いいや……」
俺はそう言うと、午後からの仕事に向けて廊下を歩き始めた。
その後、新城たちも続いて歩いてくる。
確かに同じ方向ではあるのだけど、後ろに付いてこられると、落ち着かないのは気のせいだろうか。
だから俺は急に後ろを振り向き、さっき気になったことを聞いた。
「あ、あのさ……さっき、食堂にいる時には、屋上に行くって言ってたのに、あー、何だ? さっきはあそこのトイレに……いたんだ?」
こういう話は、どうにか雄介のおかげで慣れたけど、新城とはこういう話をしたことがなかったためか、少し躊躇しながら聞いた。
「それ……ですか? そんなのは簡単ですよー。午前中は曇りだったと思うのですが、午後からは雨が降ってきたからです」
「あ……」
「そういうことか」と心の中で思い、再び歩き始める。
俺的にはただそのことが気になっただけで、他人の行動について知りたいわけではない。だから再び先に歩き始めた。
「それだけでいいんですか?」
気付くと、新城は俺の肩に腕を回し、顔を近づけてきた。
「……はぁ?!」
その瞬間、俺と新城の視線がぶつかる。
「だから、吉良先生は、それだけを私たちに聞きたかったんですか?」
「あ、まぁ……そうだけど……」
新城からの質問に気付いた時、俺は視線を逸らしてしまった。だから、新城は俺が何かを隠していると気付いたのだろう。新城は腕を離し、顎に手を当て、何かを考え始めたように見えた。
そのとき、俺は部屋に戻って逃げるべきだったのかもしれない。しかし、何故か新城たちと一緒にいてしまった。それが、後の祭りだったのかもしれない。
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