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ー閃光ー104

 今、自分がへこんでてどうする。  という気持ちになったからなのかもしれない。  もし雄介が普通に戻った時に、俺がいなくなっていたら、もっと雄介はへこんでしまうだろう。  そう思った瞬間に、俺は元気を取り戻した。  そうだ。今はとりあえず、雄介がいつもの雄介に戻るのを気長に待つしかないだろう。  そうやっていつもの俺に戻ると、着替えてソファへと横になる。  流石にそこだけは、記憶のない雄介には譲れないからなのかもしれない。  翌朝、俺はいい匂いで目を覚ます。  ジュウジュウと何かが焼ける音に、電化製品の音。 「……へ?」  と思わず半身を起こした。キョロキョロと辺りを見渡すと、キッチンに立っていたのは、思いもよらない人だった。  思わず立ち上がり、その人物の側へと向かう。 「ちょ、やらなくていいですよー……流石に他人に朝ご飯を作らせるわけにはいきませんからね」  そう言って俺は、新城が朝ご飯を作っている姿を制止しようとした。 「大丈夫ですよ……。寧ろ、私は作るのが好きですからね」 「え? でも……」 「もう、私と吉良先生は他人ではありませんから……」  そうウインクまでしてくる新城。  俺は一瞬、目を見開いた。 「……あーと……他人ではないっていうのは?」  なんとなく変な質問をしてしまった気がする。だけど、聞いてみたくなったのだから仕方がない。 「……そうですね……」  新城は天井の方に視線を向けた。 「……親友ってところでしょうか?」  いつから俺と新城が親友になったのかは分からない。いきなりそんなことを口にする新城に、再び目を見開いた。  しかし、親友の定義は未だに分からない。  確かに新城とはもう十年くらい一緒にいる気がするが、和也みたく親密な関係ではないような気がする。単純に自分が親友だと思えば、それは親友でいいのだろうか。  疑問はあるが、とりあえず、俺は、 「そっか……」  くらいの返事で終わらせた。  そのとき、なぜだか余裕のある表情で俺を見つめているような感じがするのは、気のせいだろうか。 「吉良先生は、私たちの関係を親友とは思ってないんですか? 私は以前から、吉良先生を親友だと思ってましたよ。だって、仕事でも相談相手でしたし、プライベートでも焼肉に行ったり、お家にも呼んでいただいたりしてますから、私はてっきり吉良先生とは親友だと思ってましたよ」

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