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ー閃光ー115
本当に、美里と琉斗の親子というのは、何だか親子関係がきちんと出来ているような気がする。
琉斗だって今は思春期真っ盛り中だと思うのに、全くもって反抗的な態度は美里には取らないのだから。
反抗期に反抗的な態度を取らないのはあまりいいことではないと聞くのだけど、やはりきちんと親子関係が出来ていて、しかもちゃんと普段から意見の言い合いが出来ているのであれば、こう大きな反抗にはならないのではないのであろうか。
逆に言えば、二人の関係が心を通じて分かり合っているからこそ、反抗しなくてもいいのではないのであろうか。
それに見ているこっちが、美里と琉斗の関係には何かこう親子の絆というのか、何か見えないもので繋がっているように見えているのだから。
本当に今の俺は美里に子供との関係を無言で教えられているというのか、ただ単に俺だけがそう感じてしまっているということなのであろう。
そんなんで今日は俺は琉斗と美里親子について見て来たのだが、隣りで無言でご飯を食べている雄介が、
「ん……これ、懐かしい……?」
そんなことを口にしていた。
「え? 懐かしい?」
その言葉を俺は雄介に向けておうむ返しをするのだ。
そこで俺と雄介は視線が合う。
こう雄介が記憶喪失になってから、あまり視線を合わせたことはなかったのだが、こう久しぶりに雄介と視線が合ってしまったような気がする。 そして俺の性格上、その視線を直ぐに雄介から外してしまうのだ。
そこへ美里の言葉が入って来る。
「まぁ……懐かしいと思ってくれたら、嬉しいわぁ……。 だって、私が作るご飯っていうのは、私のお母さんから教わった料理なんですものー。 そりゃ、雄介からしてみたら、本物のお母さんの味がしてるんですものねぇ……」
「あ……」
そう美里の言葉に納得する俺。
きっと記憶を無くしていても、こう記憶の奥底にあるものが、美里が作った料理に反応しているっていう証拠なのであろう。 もしかしたら美里はそういう意味でも雄介に料理を作ってくれているのかもしれない。
誰しも知っている記憶喪失の知識というのはある。 懐かしい物を見せたり、食べさせてみたりすると記憶が戻る可能性があるということなのだから。
「もしかして、美里さん……雄介の記憶を戻す為に、料理まで作ってくれてるんですか?」
「んー……まぁ、確かに、それも、あるのだけど、やっぱり、望さんが帰宅して来るのが遅いと思いますし、琉斗と二人分っていうよりも多人数分作った方がお安く済みますしね」
そこは完全に主婦の知恵なんだろう。 そこに変に納得してしまう俺。
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