確かに雄介が記憶喪失になってしまって、切なく悲しいことなのだけど、俺と雄介の周りにはこんなにも優しい人たちがいて、何だか心が和んでくる。 　今では温かい空気がこの空間に漂っているのだから。 　「類は友を呼ぶ」っていう言葉の通り、雄介が心の温かい人たちを呼んでいたのであろう。 　しかも雄介のことを心配している人たちが今ここに集まっているのかもしれない。 「じゃあ、そろそろ私たちは帰らせていただこうかしら……」 「分かりました。今日も来てくださって、ありがとうございます」 　俺は美里に向かって頭を下げる。 「いえいえ、いいんですよ。私だって、雄ちゃんのことが心配で来てるんですからね。そこは、望さんが心配するところではないですよ」 　そう言って、手と首を交互に振る美里。 　やはりまだ俺に遠慮しているのだろう。 　美里とは義理の兄弟になったとはいえ、遠慮しているところは遠慮しているのかもしれない。それに「親しき仲にも礼儀あり」っていう言葉があるくらいなのだから。 　これからもっと美里とは距離を縮めることができたらいいと思う。 　その後、美里と琉斗を玄関まで送ると、琉斗も当然のように、 「お邪魔しました」 　と言って二人は出て行った。 　今日は、俺が隣のアパートまで美里を送って行く必要はなさそうだ。琉斗がいるのだから、安心できるのかもしれない。 　もしかしたら美里はそこまで計算して、琉斗をこの家に呼んだのだろうか。そうなのかもしれない。美里のことだからあり得る話だ。 　そして俺が部屋へ戻って来ると、和也はさっき美里が座っていたリビングテーブルの椅子に座り、雄介の前で何か話を始めたようだ。 「なぁ、雄介……俺のことは覚えてないか？」 「え？　あー……」 　そう言って雄介は天井の方へ視線を向けていた。きっとそっちへ視線を向けて考えているのだろう。その間に俺も、さっき座っていた椅子へ座る。 「……まぁ、やっぱ、覚えてるわけねぇよな？　望のことを覚えてないのに、俺のことを覚えてたら、そこは、嫌だからなぁ……。だから、別に思い出さなくていいぞ……」 　和也は雄介に向かってそう言う。 「あー、スイマセン……」 　そう言って和也に向けて謝る雄介。 「そこも、謝る必要なくねぇ？　だって、今の雄介は記憶が無いんだからさ……。今のお前はそういう病気なんだから、無理矢理思い出す必要なんてないんだからな」 　そう優しく言う和也。 　きっと和也的には、一度俺のことで記憶喪失について経験しているから、色々と記憶喪失について理解していて、動じることもないのだろう。