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ー閃光ー134

「とりあえず、体の方は大丈夫そうか?」  相変わらず優しいような、心配そうな声で聞いてくる和也。  何だか和也の性格が、少し落ち着いたようにも思える。 「あ、ああ……まぁな……」 「確かに、今回望が倒れたのは、熱中症のせいもあるのかもしれねぇけど……やっぱ、雄介の記憶喪失や仕事のこと、美里さんのお腹の中には赤ちゃんがいること、それからこれからのこと――いろいろと頭が回らなくなっちまったからなんじゃねぇのか? 人間ってさ、体が休みてぇって言ってる時には、体が不調を訴えるもんなんだよな。体から『休め』って言われてんだ。……それ、うちの母親がよく言ってたんだよなぁ。親父が医者だったからさ、毎日のように疲れた顔してたし……母親は看護師だったから、よく親父のことを見てた。だけど、親父は正義感みたいなのが強い人でさ、病院から電話があれば、例えオフの時でも病院にすっ飛んでったよ。そんなんじゃ、体が保つわけねぇよな……だから親父は、過労で死んじまったんだけど。だからさ、あんまり一人で物事を背負い込むんじゃねぇよ。確かに、一番に頼れるのは雄介かもしれねぇんだけど、まあ俺たちじゃ望の場合には頼り甲斐がねぇかもしれねぇ……でもさ、やっぱ、親友だから、たまには頼ってほしい時だってあるんだよ。前に俺が新城とのことで色々あった時、お前言ってくれただろ? 『もっと俺のことを頼ってほしい』って……今はむしろ、そういう状況なのは望の方なんだから、俺たちのこと頼ってくれていいんだぞ」  和也はまるで独り言のように、視線を俺の方へと向けずに語りかけていた。  きっと俺の方に顔を向けて話せば、俺がそっぽを向いてしまうっていうのが分かっているからだろう。  和也の言葉に続けて、さっきまで裕実と言い合っていた朔望が、俺に視線を向け、 「本当に、和也の言う通りですよ、望さん……本当に辛い時には、僕たちを頼っていいんですからね。それに、望さん、一人で頑張りすぎて意識不明にでもなって亡くなってしまったら、雄介さんが元に戻れた時に悲しむことになりますよ」 「あ……」  和也の言葉だけでも心に響いていたが、今の裕実の言葉がさらに心に何かを響かせたのかもしれない。思わず口から声が漏れてしまった。  二人の言葉を俯き考えていると、 「ちゃんと、たまには自分で抜かないと、マジで違う病気になっちゃうぞー」  と、半分以上ふざけたように言うのは、さっきまで裕実に止められていた朔望だ。  本当に隙あらばって感じなのが、朔望なんだろう。

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