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ー閃光ー139
説教を始めたと思ったら、今度は俺の最近の様子を心配そうに聞いてくる裕実。
「あ、あー……」
俺はそう言葉を発し、視線を天井へと向けてしまう。まだ今のこの状況を完全に理解しきれていないからだろう。
「え? あ、だからだな……」
「今の僕は、望さんと雄介さんの結婚生活について知りたいだけですからね。きっと、望さんと雄介さんなら幸せな毎日を送っていたんでしょうね。結婚する前も素敵なお二人でしたが、結婚してからはさらに素敵な毎日を送っているんだと思ってるのですが……」
「あ、あー……」
そう言ってくれる裕実に、逆に俺の方がどんな風に話をすればいいのか分からなくなってきた。
素直に話すべきなのか? どこから話を始めたらいいのか?
「あ、あー……んー……何から話したらいい?」
項垂れたままの俺は、裕実にそう言葉を発した。
「そうですねぇ……じゃあ、赤ちゃんの方はどうなっているのですか? 少しずつ成長しているのですかね?」
その裕実の言葉に、急に和也が吹き出しながら、
「ちょー、裕実ー、さっき美里さんのお腹見ただろ? かなり順調に大きくなってんじゃねぇのか? ってか、相変わらず裕実って天然さんなんだなぁー」
そう和也が裕実に突っ込んでくれるおかげで、その場の雰囲気が何だか和やかになってきた気がした。
「ちょ、スイマセンね! あー、もー、和也ー、そこ突っ込まないでくださいよー」
和也の突っ込みに裕実が顔を赤くしているところを見ると、本気で俺にあんな風に聞いてきたのだろう。
やはり、裕実は和也の言う通り天然なのかもしれない。
だからなのか、俺は二人のやり取りに思わずクスリとしてしまった。
それに気付いたのか、
「本当、裕実はそういうとこ抜けてんのなぁー。ま、そういうとこも可愛いんだけどさ……」
「あー、もう……和也は黙っててくださいね。ねぇ、望さん……」
和也にそう返してから、今度は俺に話を振ってくる裕実。
「あ、ああ……まぁな……」
その言葉に笑顔を見せる裕実。本当に裕実の笑顔は心を穏やかにしてくれるような気がする。
きっと裕実は患者さんにもこの笑顔を見せているのだろう。だから、裕実の患者さんも穏やかに過ごせるのかもしれない。
二人のやり取りを見ているうちに、少しずつ心が落ち着いてきた。
俺は軽く深呼吸をすると、
「本当、二人とも、今回はここに来てくれてありがとうな……俺、どうにかなっちまいそうだったけど、何だかいつもの自分に戻れた気がする……だから、本当にありがとうな……」
そう言って、俺は真剣な声で頭を下げた。
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