909 / 936

ー閃光ー197

 多分、記憶があった時の雄介が、玄関すぐ横にある部屋に防災リュックを置いておいたのだろう。すぐに何かあった時に取り出せるようにしていたのかもしれない。  しかし、それを記憶喪失である雄介が覚えていたのは、本当に意外だった。  いや、もしかしたら昼間、俺がいない間に部屋の中を探索していて、防災グッズがそこにあることを確認していたのかもしれない。そのあたりはまだ分からないが、今はとりあえず、この停電の状況をどうにかして過ごさないといけない方が先だ。  夕飯の方は、あと温めるだけでいいらしい。それならそれで問題ないだろう。  俺は一旦、防災リュックを床に置いて、裕実がいるキッチンへ向かうことにした。  和也は美里に電話してくれているのだから、俺は料理をしている裕実の方へ手伝いに回った方が早いと思ったからだ。  そして、ダイニングテーブルに料理を運び終えた頃だっただろうか。和也も美里との電話を終えたらしく、 「とりあえず、美里さんの方は大丈夫だってさ……」 「ああ、ありがとうな。とりあえず、美里さんにも何もなくて良かったよ……」  その和也の言葉に、俺が安堵のため息を漏らしながら返事をしたのは言うまでもない。  俺と裕実は引き続き料理をダイニングテーブルへ運び、それらを並べていった。  そこで、ふと自分で違和感を覚える。  そう、この作業は、いつもなら雄介と和也がやっているはずだ。  いや、今日は俺が裕実に頼んだからこうなったわけで、いつもなら和也がやってくれているだろう。いやいや、今日の和也は俺と一緒に病院で働いていたのだから、この料理は裕実か美里が作ったのかもしれない。 「ん? 今日は誰が作ってくれたんだ?」  俺は裕実に話を振った。 「あー、今日は、美里さんに教わって、僕が作りましたよ。いつも料理は和也たちに頼りっぱなしだったので、たまには自分で作ってみたかったんですよね。それに、和也は午後になったら望さんがいる病院に働きに行っちゃったわけですから~」  そう言って、少し不満そうにしている裕実を眺めつつも、俺は妙に納得してしまった。  そうだ、和也と雄介がいると、料理はいつも雄介か和也――というより、ほとんど雄介がメインで作ってくれていた。しかし今日は和也も家にいなかったのだから、裕実が美里に教わって作るしかなかったのだろう。 「あー、なら、ありがとうな……」  俺が感謝の言葉を伝えると、裕実はなぜか首を傾げながら俺を見上げてきた。  そんな裕実の姿が妙に可愛くて、俺は思わずドキリとしてしまった。

ともだちにシェアしよう!