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第6話 だから、ひどくしていいよ

「どっちがいい?」  と俺は尋ねた。 「颯希は?」 「選ばせてもらえるなら……賢人に、入りたい」 「……いいよ」 「そっちのほうが慣れてるっしょ、賢人も」  賢人の顔が一瞬にして真っ赤になる。 「耳まで真っ赤。かーわいい」  俺はその耳たぶを唇で挟み込むように口づける。賢人はピクンと身を震わせた。耳が弱いのかもしれない。俺のほうが初めてなのに、賢人が可愛く見えて仕方がない。 「やめろよ、そういうの」 「だって可愛いから」 「と、年上をからかうな」 「年下だからダメなわけ?」  舌先で耳をくすぐると、んっ、と甘い声が出た。やっぱり耳が感じやすいらしい。耳へのキスに始まって、首筋、鎖骨と舌を這わせた。 「ほんとに童貞かよ」 「通信教育でばっちり」 「アホか」  賢人が笑う。その笑い声が、少しずつ蕩けてくる。乳首を舌で転がしてやる。もう片方の乳首は指先で。これは耳以上の反応があった。すぐにぷっくりと膨れるそこに、そんな淫らな体に仕立てた張本人であろう柾の顔がちらついて腹立たしい。 「ねえ、どんな風にして別れたの」  俺は指で弄んでいた乳首をつねりあげた。賢人は、いっ、と小さな悲鳴を上げる。 「今、聞く? それ」 「彼女ができたからバイバイって?」 「……そう、だよ。ほかに好きな奴できたって」 「マジか。かわいそ、賢人」 「はは、それをこのタイミングで聞くおまえも相当ひどいけど」 「そうだね」俺は再び彼の口に戻り、キスをする。「優しくするよ。あいつより、絶対」 「ばーか」そう言いながら泣きそうな顔で賢人は俺の首に腕を巻き付けてきた。「それは無理。あいつ、無茶苦茶優しかったもん。柾より優しい奴なんかこの世にいない」  本当は知ってる。あいつは……柾は、俺にだって優しい兄貴だった。小さい頃からいつも、おやつだっておもちゃだって俺に先に選ばせてくれた。確かに勝手気ままな自由人で、周りの大人たちを困らせることは多かったけど、俺のわがままなら聞いてくれた。誰より大好きな賢人との時間に隙あらば割り込んでくる弟を邪魔に思ったっておかしくないのに、一度だって邪険にされたことはなかった。だからあの日まで二人が特別な関係だと気づかなかったんだ。柾も賢人も、俺を傷つけないようにと慎重に、ひっそりと恋をはぐくんでいたんだ。 「そんなに好きだったんだ?」  俺は力なく笑ったけど、俺にしがみつくようにしている賢人に俺の顔は見えていないだろう。俺も彼の表情は見えなかった。分かるのはぴったりと合わせた互いの肌の熱さと、はやる鼓動。どちらの心臓の音か分からない。 「好きだったよ」巻きつく賢人の力がますます強くなる。「だから、ひどくしていいよ」 「え?」 「優しくされると思い出す。だから、おまえはひどくして。何してもいいから」 「何しても、って」 「どうせ散々俺で妄想してたんだろ? それ、ぜんぶやっていいから」 「なんだよ、それ。まだすげえ好きじゃん、柾のこと」  賢人は何も返事をしなかった。ただ腕の力を緩めると、さっさとローションを持ってきて、自分で自分の股間にそれを注いだ。それから大胆に開脚をすると、俺の目の前で自慰をするように、指を挿入してみせた。 「ここに、入れるんだよ、おまえの」そう言って賢人はニヤリと笑った。さっきの泣きそうな表情とはまるで別人だ。「でも久々だからな……。手、貸して」  恐る恐る手を差し出すと、賢人は躊躇(ためら)いなく二本ばかり指を咥え、唾液でべとべとにした。手首を握り、その指をさっき自分で開いてみせた後孔に沿わせた。そこから先は誘導されなくたって分かる。俺は中指をそこに挿入した。ローションと唾液でぬるぬるの指はあっけなく入っていった。 「んっ」賢人がうわずった声を出す。「も、少し、先、の。……そう、そこ。押して、グッて」言われるがままに関節を曲げてやると、他とは違う弾力を感じる箇所に当たる。賢人は「あんっ」と艶めかしい声を上げた。「そこ。俺の、いいとこ、だから。覚えて」  俺は何度かそこを押す。そのたびに賢人は喘ぎ、体を震わせた。俺は人差し指を追加して、賢人の「いいとこ」を刺激したり、もっと奥、あるいは浅いところを行ったり来たりさせた。 「あ、ああっ、んっ」  見たことのない賢人だった。普段は、一言で言えば「好青年」の、爽やかな風貌の賢人が、目を潤ませ、荒く息を吐き、肌を赤く染め、俺の指の動きに喘ぐ。その姿は、夢で見たよりずっと淫蕩だった。 「賢人、俺……」  俺は俺で、今にも暴発しそうだった。 「すご、もう、おっきい。いいよ、入れて」  賢人は俺の股間を見ながら満足そうに笑い、慣れた手つきでコンドームをつけてくれた。かと思うと、くるりと背を向け、四つん這いになった。 「俺、顔見ながらしたいんだけど……」 「だめ、今日はこっち」  交渉する余裕もなく俺は賢人を後ろから突いた。初めてのことで加減も分からず、今思えば随分と荒っぽいやり方だった気がする。だが、それこそが「優しくしないでほしい、ひどくしてほしい」という賢人の要望に応えた、ということになるのだろう。

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