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後編
シャワー時間の長さから、おそらくショウヘイさんは自ら受け入れる準備をしてくれたのだと思う。浴室から出てきた表情はとろんと緩んでいて、色っぽい視線で俺の様子をうかがっている。
間をもたせるためなのか雑談のように2、3こ質問を投げかけてきたけど、その声は甘く期待を孕んで少々うわずっていた。本人はこれでも隠せているつもりでいるところが可愛い。
今すぐにでもキスをして押し倒したいところではあるが…俺から明らかな誘いをしてしまうのは意味がない。ショウヘイさんは過去の恋愛経験から、自分の欲求や気持ちを言葉にするのが臆病になってしまったようだった。
本来相手に尽くしたいタイプのショウヘイさんは、今までの恋人運が悪かったのか“搾取”されてばかりの恋愛だったと漏らしたことがあった。それが当たり前だったせいで、本人も気づかないうちに我慢を重ねて身を削りながら尽くすようになってしまっているのが見てとれる。
俺としてはもっと甘えてほしいし、安心してもらえるようにたくさん愛情をそそぎたい。
ショウヘイさんの中にある拭われない不安はずっと付きまとっているようで、それをぐっと我慢することでようやく立っているような印象がある。ふと寂しいような、すがるような目をすることがあるのだ。その不安を紛らわせるように身体を繋げようとするショウヘイさんが、いじらしく、悲しく、すべてを包み愛で満たしたくなる。
ショウヘイさんはミネラルウォーターを冷蔵庫にしまい、ソファのほうへやってきた。12畳のワンルーム、数歩移動すればベッドはすぐそこ。ショウヘイさんは突っ立ったまま言葉に迷っているらしく、ついつい先に声を掛けてしまった。
「もう寝ようか?」
「ん、うん…」
「…ベッド、いこう?」
熱を帯びた視線が絡み合い、立ったままのショウヘイさんの手を取りベッドへ誘導する。上気した頬に、耳までほんのり色付いていて色っぽい。俺の熱も下半身に集中し始め、鼓動が大きくなるのが分かる。
ベッドへ腰掛けたところで、ショウヘイさんが跨ってきて身体を密着させてきた。大胆な行動にどきりと心臓が跳ねる。
「…今日は、するだろ?」
耳元で囁くように尋ねられ、拒否という選択肢は無いとでも言いたげに、俺が返事をする前に軽く唇が触れ合う。触れた肌が熱く感じたのは、誰の体温のせいだろうか。
「…ショウヘイさん、したいんだ?」
「ん…めちゃくちゃに、してくれてもいい」
その言葉を合図に、どちらともなく舌を求めて口腔内を埋め合った。
少々挑発的な言い方で余裕を演じたつもりかもしれないが、待ちきれない身体をぐいぐいと俺に押し付けてくる。くそっ、可愛すぎる…。
言葉通りにめちゃくちゃにしてしまわないよう理性を保ちつつ、ショウヘイさんを仰向けに寝かせた。このままショウヘイさんが馬乗りの体勢を許してしまうと、多少無理をしてでも早急に挿入させようとしてくるのだ。
ショウヘイさんとセックスするようになった最初のころは、自分のことより相手の快楽を優先させてしまうのを目の当たりにしてびっくりしたし、過去にそういう付き合いを教え込んだ奴らに嫉妬で狂いそうだった。
2人で気持ちよくなるために、ショウヘイさんにも気持ちよくなってほしい。セックスは肌で愛を感じ合うものだということをちゃんと知ってほしい。
お互いに服を脱がせあって下着1枚の姿で抱き合い、深くキスをする。お互いの唾液を味わうように、じっくりと、ねっとり口腔内を舌でまさぐった。湿った水音が鼓膜を刺激する。
「ん、ン…ぁっ…」
しっとりとした皮膚を撫で、胸にある突起に触れる。ぷっくりと主張しているそこをゆっくりと指で押しつぶしながら、唇では身体の輪郭をなぞるように首、鎖骨とキスを落としながら胸元へ辿り着く。
「ショウヘイさんのここ、ぷっくりしてかわいいね」
「なに、言って…んっ…」
「乳首でこんなに反応して、やらしい…」
ピンクに色付いた粒をじっくり舐めるとぴくぴくと身体を震わせ、少し吸って軽く噛んでみれば腰がひくっと跳ねる。ショウヘイさんの下着を押し上げる屹立はボクサーパンツに小さな染みを作っていた。
「…ここ、気持ちい?」
「も、いいからっ…」
「こっちも苦しそうだね」
右手でするするとショウヘイさんの腰を撫で、ボクサーパンツに手を入れ下着を脱がせた。パンツのゴムに引っかかった屹立がぺちっとショウヘイさんの下腹部を叩く。
手で握って軽く扱いただけで、先走り汁がとろっと湧いてくる。先っぽにそれらを塗り込めるように動かせば、ショウヘイさんの抑えきれないくぐもった声が漏れた。
「声、殺しちゃダメ。聞かせて?」
「やだっ…ぁっ…んん…」
毎度恥ずかしがってか、自分の手で口を覆って声を我慢している。もっと素直に快楽に身を委ねてほしいんだけどな、とちょっと意地になって、自分の中の嗜虐心がむくむくと顔を出す。
しごく手を早めると、手の中でちゅくちゅくと小さな音がなる。
「歯食いしばってる」
「…だって、声、でる…ぁっ…」
「いいんだよ?」
「キモい、だろっ…」
「んなわけ。かわいい」
そう断言すると潤んだ瞳が俺を捉え、それよりもはやくとねだるように腰がひくひく揺れている。俺の右手に収まるショウヘイさんの熱は涎が止まらない。この、いつもより少し余裕のあるショウヘイさんの反応に、先ほどの浴室でひとり無駄打ちしてきたな、と確信した。
舌で胸元の突起を転がしながら、右手は陰茎からさらに奥へと移動させる。双球をゆるゆると撫で、すぼまりを捉えるとそこはすんなりと俺の指を受け入れた。
「ンンっ…ふ…」
「ローション仕込んである」
「ぁ…言うな…」
「ちゃんとほぐれてるか確認しないとね」
身体を震わせながらみるみる顔が赤くなっていくショウヘイさんに愛しさが込み上げ、早急にぶち込んで欲望のまま腰を打ちつけたくなる衝動をなんとか抑えた。ベッドヘッドにあるローションボトルを手に取り追加で後孔に塗りこめる。
「も、入る、からっ…はやくっ…」
「だーめ、傷付いたらやだよ」
ぐちぐちと音を立てて、2本の指でゆるゆると内壁を撫でる。この柔らかさなら3本入れても大丈夫だろうけど、さっき1人で無駄打ちしてきたことを思えばもうちょっと焦らしてもいいだろう。
「上のお口はこれしゃぶってて? 歯食いしばらないように」
「…ん、ちゅ…は…ぁっ…」
ショウヘイさんの口元に左手を差し出せば、なんのためらいもなく素直にしゃぶる。熱い舌が指に絡みついて、ぴちゃぴちゃと卑猥な音を立たせて。うっとり恍惚とした顔をして、俺の左手を大事そうに抱えながら愛おしそうに口に含んでいる。その合間から漏れる抑えきれない喘ぎが、鼓膜にまとわりついてひどく興奮した。
右手ではもう柔らかくなっている入り口を執拗に擦ってわざと聞こえるように音を立てた。前立腺をかすると、左手に触れている舌が跳ね喉の奥から喘ぎが漏れる。確実な刺激はあえて与えずに右手を動かしてやれば、快楽を追うようにショウヘイさんの腰がいやらしく動いて、口がねだるように左手をしゃぶっている。
反応がいちいち素直でかわいい。自分の興奮ももう我慢の限界だった。
「…かわいい。もう俺も限界」
「俺ばっか…ンぁ…ハルも、…」
「一緒に気持ちよくなろうね」
唾液でふやけそうな左手を口から離して、ショウヘイさんの脚の間に向き直る。ゴムを手早く装着し、ひくひくと物欲しげな後孔へ猛りを添え、とろけきった入り口を先端で撫でると吸い付くように襞が絡む。
「すごい…ここ、えっちすぎ」
「じらすな…、ン、もう、はやくっ…あ、あ…」
「ショウヘイ、さ、んっ…くっ…」
もう待てないというようにショウヘイさんが腰を揺らし、自ら猛りを迎え入れる。熱く熟れた肉壁に誘われゆっくりと奥まで押し拡げれば、びりびりと快楽の波が押しよせた。興奮しすぎて脳が沸騰しそうだ。
「…っ、だめだ、すぐ、出そう」
「い、あぁっ、ンあ、あ…ンぅっ…」
ショウヘイさんの身体がびくっと強張り、陰茎からは止めどなく白濁が溢れて胸元や腹部に散った。臍の窪みに溜まる白濁がやらしく、余韻で亀頭から垂れるそれがまた淫美だ。
「挿れただけで、イったの? もうっ、かわいすぎ…」
俺も2、3回抽挿を繰り返せば呆気なく果ててしまった。しかし、その興奮はまだ衰えそうにない。
「すごい、絡みついてやらしい…」
「ン…ハル、もっと…」
「もちろん」
快楽で潤んだ瞳が俺を捉えて離さない。
ゴムを付け替える間も惜しい。もっと奥深くつながっていたい。
ショウヘイさんに深く口付け舌を甘く吸いながら、イイトコロを刺激するように腰を動かす。
俺の腕を掴むショウヘイさんの汗ばんだ手は、必死にすがりつくように力がこもって時折り爪を立てた。
「あ、あっ、…ハルっ…そこ、くるっ…あ、あ、」
「ん、いいよ、イって」
「きもち、いっ…あぁ、ハルっ…」
俺を包む肉壁がわなわなと収縮し、ショウヘイさんはびくびくと背中をしならせ絶頂を迎えた。
「メスイキした? 出てないね」
「んぁ、…待っ…まだ、イッて…」
「かわいい、ショウヘイさん、好き…何度でもイって、気持ちよくなって」
無防備な喉元や鎖骨に吸い付きながら跡を残す。前回付けた跡はもうほとんど消えかかっていた。ゆるゆると腰を動かし快感と戯れながら、必死に呼吸を整えようとしている愛しいショウヘイさんにぴったり覆い被さって抱きすくめた。
「今日はさ、もっと奥に入ってもいい?」
「ぇ、なに…」
「ここの奥、もっと繋がれるよ」
「も、無理だ、」
ショウヘイさんの腋から肩を抱えるようにホールドし、さらに奥へ、ゆっくりと力強く腰を押し進める。耳元でショウヘイさんが息を飲み、呼吸が浅く早くなったのが聞こえた。
「ひぁ…ハル、ハルキっ…無理っ…くるしっ…」
「ショウヘイさん、ほら、一番奥、気持ちいよ…俺を受け入れて」
「んんあ、あっ、なにっ、あ、あぅ…なんか、くるッ…」
ショウヘイさんの耳をねぶりながら腰を揺すって最奥をトントンと突いた。声にならない喘ぎを漏らしながらびくびくっと身体を震わせショウヘイさんが達したのを感じ、俺もそれに続いて最奥で薄い膜の中に精を放った。
「…んっ…ショウヘイさん…あれ? おーい」
ぐったりした恋人はそのまま意識を手放したらしい。快感で涙が流れた跡にそっと口付け、少々やりすぎたかなと思ったが、快楽に堕ちてクタクタになった恋人に愛しさが込み上げる。
「ふふ、かわいい…好きだよ、大好き」
きっと本人には聞こえていないだろう。
最後にショウヘイさんの唇を甘く吸い、離れぎわにちゅっと音を立てた。
もっと甘えてくれればいい、もっと溺れてしまえばいい、俺にだけ寄りかかっていればいい…。優しく愛したい気持ちの奥で獰猛な欲が沸々と湧き上がる。
横たわる愛しい恋人を優しく抱き寄せ、熱のこもった気怠い身体を眠気に委ねて、深い眠りについた。
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