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第2章 4

 水曜日。先週、蒼空を見かけたのと同じ南館の食堂で、壱星と向かい合って座りカツカレーをつつく。 「ねぇねぇ、智暁君。ゴールデンウィークってバイト?空いてる日ある?」 「え?あぁ、うん……」  ここに来ると、嫌でも蒼空のことを探してしまう。 「せっかくだからどっか出掛けようよ。智暁君、何かしたいこととかある?」 「いや、別に……」  だけど、今日はその姿を見つけることができない。  会わない方がいいのはわかっている。むしろ、なるべく会わないようにしなければ、あのソワソワとした期待感がまた湧き上がって来てしまいそう。  それに、壱星と一緒にいるところは何となく見られたくない。 「……でね、そのショップで買い物したら併設のカフェで限定のチーズケーキ食べれるんだって。智暁君甘いもの好きでしょ?それに夏物の……」  駄目だ。壱星の話が全然頭に入ってこない。  先週、蒼空を見かけたのは確かあの奥の当たりだった。あの時、蒼空と一緒にいた友達の中に1人すげぇ派手な服着てて目立つ奴がいたはずだ。ソイツを探せば……。 「ねぇ、智暁君」  いない。蒼空が見つからない。会いたくないのに、見られたくないのに、蒼空がいないと不安になる。  やっぱり俺のこと避けてる?どこかで俺を見かけて、それでこの食堂から立ち去ったとか……。 「智暁君、ねぇ、聞いてる?」 「……えっ?ごめん、聞いてなかった」  壱星の手が軽く音を立ててテーブルを叩き、ようやく俺は我に返った。 「智暁君、誰か探してる?」 「は?何で?そんなことないけど……。ただ、今日はカレーじゃなくてササミチーズカツにすりゃよかったかなって……」  俺の答えに壱星は不審そうに顔を顰めた。 「智暁君、何か……」 「いや、それよりもさ、ゴールデンウィークの話だろ?ごめん、途中からあんま聞いてなかったんだけど、限定のカフェ?あ、チーズケーキだっけ?俺もそれ行きたい」  断片的に聞こえてきていた話を思い出して適当にそう言うと、壱星はパッと顔を輝かせた。 「ほんと?嬉しい。じゃあ、智暁君の服、俺が選んでもいい?」 「……ん?おう、頼むわ」  服?ケーキの話じゃなかったんだろうか。 「楽しみだなぁ。仲良しの店員さんいるから、智暁君に似合いそうなの取り置きしといてもらうね」  壱星の言っていることはイマイチよくわからないけど、うまく誤魔化せたようだから余計なことは言わないでおこう。  その日はずっと、南館を移動する時も探し続けたけど、蒼空の姿を見つけることはできなかった。 ◇◇◇  金曜日。本屋で蒼空に会ってから1週間が経つ。この間まで1年間会っていなかったのに、今はたった1週間会えないだけでおかしくなりそうだった。  あいつのことが頭から離れない。また今度飯でも行こうって言ってたのに、やっぱり連絡1つくれないのか。  ギシっと軋む音で我に返る。いつもと同じ、壱星の部屋のセミダブルベッドが俺達の重みで揺れる。 「智暁君、それっ……痛い、かも……」  俺の下で壱星がか細く声をあげるが、構わずその華奢な首に歯を食い込ませる。 「あぅっ……も、そこ、見えちゃうから……」  軽く押しのけられて顔を上げると、壱星は目に涙を貯めて俺を睨んだ。 「壱星が可愛くて……ごめんな。大丈夫、すぐ消えるよ」  そう言いながら、薄っすらと歯型のついたその場所にキスをする。 「智暁君……」  満更でもなさそうな様子で、壱星はうっとりと俺の名前を呼び、頭を撫でてきた。  最近の俺は全く余裕がない。キスマークとか歯型とか、こうして目に見える形でいくら壱星に俺の印を残しても、正直言って全然満たされない。  最悪だ。最悪なのはわかってる。 「壱星、俺が欲しい?俺のこと好き?」  なのにやめられない。壱星がどこまで俺を受け入れられるのか試すようなことをするのも。 「好き……智暁君。俺のこと、めちゃくちゃにして……」  壱星と一緒にいながら、蒼空のことを考えてしまうのも。 「壱星、俺も……」  仕方ないんだ。お前なら、この気持ちわかってくれるよな?醜い俺の欲望を、受け止めて、堰き止めてほしい。お願い、今だけだから。お前がいてくれれば、俺はきっと、蒼空を忘れるから――

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