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第2章 7
終電ギリギリまでファーストフード店で喋り倒して、俺たちはお互いの家のすぐ近くの曲がり角で別れの挨拶をする。高校生の頃と同じように、いつもの場所で。
「じゃーな、智暁。またな」
「おう、また……」
だけど、また明日とは言えない。次はいつ会えるのかもわからない。一緒にいてこんなに楽しいのに、どうして。
「バイバイ、蒼空」
そう言うと俺は、逃げ出すような気持ちで蒼空に背を向けて自転車を漕ぎ出した。蒼空の背中を見送る勇気なんてなかった。今生の別れでもないのに、こんな気持ちになるなんて……。
家に帰る途中、公園の前で自転車を漕ぐ足を止めた。控え目なアスレチックと砂場とブランコしかない小さな公園だけど、小学生の頃の俺と蒼空は毎日のようにここで遊んでいた。
入り口に自転車を置いて、ブランコに触れる。地面に足をつけたままでも背伸びをすれば支柱の一番上まで手が届き、思わず吹き出してしまう。こんな小さなブランコで立ち漕ぎができるくらい、あの頃の俺たちはチビだったのか。
あの頃と今とでは、何もかもが違う。
いつから俺は、蒼空に歪んだ感情を抱くようになってしまったんだろう。
中学の時に別々の部活に入ったことを後悔して、高校では同じ部活を選んだ。たぶん、その時にはもう、蒼空は俺にとってただの友達ではなくなっていたんだと思う。
馬鹿だな、俺は。傍にいたいと思えば思うほど、あいつの存在を遠く感じる。
ブランコの周囲に置いてある柵に腰かけると、俺はスマホを取り出して壱星に電話を掛けた。
呼び出し音が3回鳴る。どうか、このまま出ないでほしい。今は壱星の声なんて聞きたくない。でも、寂しくて寂しくて仕方がなくて、俺は壱星に縋ってしまう。
「……もしもし?」
4回目の呼び出し音が途切れ、壱星の声が耳元に響いた。
壱星が与えてくれる安心感は、蒼空と俺との間に存在する距離を強調する。
「智暁君?どうしたの、こんな時間に……」
「ごめん、寝てた?」
「ううん。まだ起きてたよ。でも、どうしたの?何かあった?」
「いや、なんか……声聞きたくて」
俺は卑怯者だ。蒼空にも壱星にも嘘をついて、何やってんだろう。
「……ほんと?あの、俺も……俺も智暁君の声聞けて嬉しいな」
壱星は電話越しでもわかるくらい浮ついた声を上げた。
「なぁ、壱星、俺のこと好き?」
「えっ?うん……好きだよ、智暁君。でも、ほんとに大丈夫?最近の智暁君、なんか……」
「俺、壱星のこと大事にできてるかな」
蒼空に言われた「大事にしてやれよ」という言葉。それを気にしている時点で、俺は壱星のことをぞんざいに扱っている。
「…………うん、俺はそう思うよ。だって、智暁君いつも一緒にいてくれるし、優しくしてくれるから」
壱星は俺の唐突な問いかけを詮索することもなく、淀みのない声でそう答えた。そして、一呼吸置いた後、囁くように「だから」と続ける。
「俺はずっと智暁君の傍にいるよ。何があっても、絶対に離れたりしない。大好きだよ、智暁君」
今、何よりも俺が望んでいる言葉に胸が熱くなる。
「そっか。ありがと。じゃ、また明日」
「……うん、また明日ね、智暁君」
満足して通話を切ると、スマホの画面に通知が表示されていることに気が付いた。蒼空からメッセージが届いている。
今日教えたゲームの進捗状況を示すスクリーンショットと共に、「明日も1限なのにやめ時が分からない」という言葉と怒った顔のスタンプが立て続けに送られてきている。
こいつは、人の気も知らないで……。
拍子抜けするような内容に、俺は静かな公園で1人含み笑いを漏らした。
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