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第2章 10

「智暁君。帰ったんだと思ってた」 「ごめん、やっぱお前と一緒にいたくなって。迷惑だった?」 「ううん。全然。来てくれてありがとう……」  嬉しそうに下唇を噛む壱星の腰を強引に引き寄せると、玄関に立ったまま覆い被さるようにしてキスをする。  頭1つ分低い背丈。折れそうなほど細い腰。スベスベの頬。壱星は見るからにひ弱で、脆い。俺や蒼空とは全く違う。 「……あっ……ち、智暁君っ……」  ウェストがブカブカなズボンは脱がせる必要もなく、呆気なく俺の手を受け入れた。 「何?」  問いかけると、壱星は背伸びをして俺の耳元に口を近付ける。 「あの、今日、もうシャワー浴びたから……」  興奮で震える声に、俺の中で何かが弾けるような気がした。  ……俺たちは趣味も合わないし、似ているところが1つもない。でも、そんなことはどうでもいい。壱星は俺に夢中だ。何をしても、どれだけ傷つけても絶対に俺から離れない。 「壱星、そんなに俺が欲しかった?待ち切れなかった?」  唇を重ねたまま廊下を進んで部屋に入ると、突き飛ばすように壱星をベッドに押し倒した。その上に跨るとTシャツを脱ぎ捨て、壱星のスウェットを乱暴に捲り上げる。  前抱いたのはいつだっけ。まだ消えそうにない痣だらけの体を前に、ごくりと唾を飲み込んだ。 「智暁君、早く……」  壱星は潤んだ瞳で俺を見つめながら、自分からズボンと下着を下へとずらした。露わになった白い太とももを持ち上げると、躊躇いもなくその中心へと指を突き立てる。 「あっ……ん」  すでに解されたその場所はあっさりと指を飲み込み、ヒクヒクと俺を誘う。本当に準備万端のようだった。 「壱星、俺も早く壱星が欲しい。もう挿れていい?」 「……うん、智暁君。きて……」  ベッド脇に用意されていたローションとコンドームを手に取ると、俺は手早くそれを付けて自身のモノを壱星にあてがった。 「ああっ……」  一気に奥まで挿し込むと、仰け反った細い首に控えめな喉仏が浮び上がり、それを強調するかのように華奢な指がそこを這った。その様子がなんかエロくて、俺は右手を伸ばしてそれに触れた。 「ちっ、ちあっ、きっ……ぐっ……」  喉元に親指を押し込むと壱星の声がくぐもり、中がぎゅっと締まるのを感じた。細い指が俺の手と壱星の首の隙間に入り込もうとするが、それを許さずさらに力を込めていく。  気持ちよくて、自然と腰が動いてしまう。 「がっ……あっ……」  はぁはぁと喘いでいた壱星の吐息は、いつの間にか肺の奥から無理やり押し出されるような濁った音に変わっていた。  そうして、俺の手の中で、ゆっくりと壱星が潰れていく――。  ――ヤバい。何やってんだよ、俺は?!  ハッとして慌てて手を離すと、俺は壱星の上から飛び退いた。 「ゲホッ……がっ、ゲホッ……ゴホッ」  壱星は起こした上体を捻り、口元を抑えてむせ始めた。 「ごめん……ごめん、壱星。違う、俺は……俺は何を……」 「ち、あきくん……」  何度も咳き込みながら、壱星は俺を見上げて名前を呼んだ。汗と涙と唾液で濡れた顔は本当に苦しそうで、俺はその場から逃げ出したいような衝動に駆られていた。 「ごめん、ほんとに、俺、自分でも何でこんなこと……」  無様に後退る俺に、壱星は細い腕を伸ばす。 「智暁君……大丈夫、わかってるよ。ねぇ……」  辛そうに細められていた壱星の瞳が、今度はゆっくりと弧を描く。 「ねぇ、智暁君……きて」  伸ばされた手を握ると、弱々しく引き寄せられた。逆らえずに隣に座ると、壱星は甘えるように俺の胸に顔をつけた。 「ごめんな、壱星。俺、そんなつもりなくて。苦しかったよな」 「ねぇ、智暁君。……俺、智暁君になら何されても平気だよ」 「え?で、でも……」 「智暁君、好きだよ。大好きだよ」  そう言いながら、壱星は俺の股間をゆっくり撫で上げた。そこは当然すっかり萎えていたが、壱星はまるで続きをやろうとするかのように愛撫を始める。 「ねぇ、智暁君、舐めてもいい……?」  何考えてんだよ、こいつは。  急に怖くなった俺は壱星の手首を掴むと引き剥がした。 「やめよう、壱星。今日はもう。ごめん、俺が悪かった。台無しにしてごめん」 「あ…………そっか、そうだよね。俺こそごめんね」  心臓が飛び出しそうなほど激しく脈打っているのは、自分のやってしまった恐ろしい行為のせいなのか、それとも、尚も俺を求める壱星の異常性のせいなのか。  それからしばらくの間、俺たちは黙ったまま抱き合っていた。

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