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第4章 3
「どういう関係って……ただの高校の先輩と後輩だろ?ってか、何で蒼空はそんなこと……」
「俺、たぶん、あの2人が話してんの聞いたんだよ」
壱星が重森真宙と……?
いや、そんなことあり得るだろうか。
そうだとしたら、壱星の涙は何だ?あの時、重森が同じ大学にいることを指摘された壱星は、「ごめんね、智暁君。怖かったんだ」と悲しそうに泣き、それでも追求をやめない俺に「じゃあ俺のスマホ見てみる?!」と今度は怒りながら泣いていた。
嘘をついているようには見えなかった。
でも、壱星は以前もそうやって……。
「智暁?大丈夫?」
ハッとして顔を上げると、蒼空がこちらに身を乗り出して不安そうに俺を見つめていた。
「智暁、お前、ほんとに何も知らないの?」
「し、知らない……。え、ってか、いつ?何で?あの2人が話してたから何なの?何で俺にそんなこと……」
蒼空は何かを探るように真っ直ぐ俺の目を見ながら、慎重そうに言葉を選ぶ。
「ゴールデンウィーク明けて1週間後くらいだっけか、俺たち駅ビルで会ったじゃん?あの日……」
こみかみの辺りがピクピクと勝手に動き出してしまう。
今から1ヶ月も前。そのことに再び視界が暗くなるような気がしたが、俺はあることに気が付いて上擦った声を上げた。
「まっ、待てよ。それ、お前が壱星と会う前じゃね?」
「……え?」
「だから、俺とお前と壱星が食堂で鉢合わせるより前じゃないかってこと。お前らは知り合いじゃないだろ?なのに何でそれが壱星だってわかるんだよ?おかしいよな?」
アリバイの矛盾をつく探偵にでもなったような気持ちで俺は捲し立てた。
蒼空はそんな俺の様子に動揺することもなく、「あぁ、それは」と言葉を繋げる。
「真宙さんが砂原って呼んでたんだよ。もちろんその時はそれが誰かなんて知らなかったけど。それから、智暁って名前も聞こえて」
「……え、俺の?」
蒼空は「そう、だから」と言ったきり、不安そうに斜め下を見つめ、その薄い唇を噛んだまま黙り込んでしまった。
「な、何だよ。どういうことだよ」
続きを促す俺の声は震えている。俺の不安が蒼空から言葉を奪っているとわかっていても、もはや狼狽を隠すことなんてできなかった。
「頼む。教えてくれ。お願いだから」
「……智暁、お前、やっぱり……」
何かを言いかけた蒼空は悲しそうに目を伏せてから、意を決したかのように顔を上げた。
「俺もこの間まで……智暁のスマホ見て、壱星って人の苗字が砂原だって知るまで忘れてたんだ。だから記憶が曖昧かも――」
「いいから!何話してた?あの2人は、どんな……」
揺さぶるように肩を掴むと、蒼空はようやく自分が聞いたという会話について話し始めた。
――その日の夕方、蒼空は課題をするため図書館にいたのだが、忘れ物をしたことに気が付き教室へと引き返したらしい。その時、5限終わりでもう誰もいないはずの教室から俺の名前が聞こえてきて、思わず耳をそばだててしまったという。
「あれは間違いなく真宙さんの声だった。それから、その人は……真宙さんから砂原って呼ばれてたその人は、1回だけ真宙さんのことを重森先輩って呼んでた」
俺に抱かれた壱星の「重森先輩」という熱っぽい声が脳裏に蘇る。
「それで、2人は……たぶん、金のやり取りをしてた。見たわけじゃないけど、内容的に、砂原って人が真宙さんに金を渡してた。その……結構な大金を」
重森が壱星をカツアゲしてたってことだろうか。金持ちの壱星なら標的にされてもおかしくない。そういえば中村も重森が信者から金を巻き上げているとかそんな話をしていた。
蒼空は苦しそうにこめかみを押さえて下を向いた。数秒後、様子を伺うようにゆっくりと顔を上げて再び口を開く。
「それから友達とかにそれとなく聞いてみたんだけど、砂原って人と真宙さんの関係は普通じゃないらしい。高校の頃からずっと、あの2人が変なことしてるって噂があるらしい」
「何それ……」
「詳しくは知らないけど、砂原って人は真宙さんの言いなり的な。その時、俺が聞いた会話も変だったんだよ。真宙さんが『俺のためなら何でもできる?』って聞いたりしてて……」
蒼空の話がわからない。壱星が重森にいいように扱われ、金まで捲き上げられているんだとすれば……壱星は何で俺に嘘をつく?大切そうにしていた選挙公約は?
……嘘をついているのは、本当に壱星だろうか。
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