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第2話
あの罠がぶっかけてきた液体は、たぶん危険なものだった。治療師が見抜けなかったのは、効果が反転していたから、か。あのままだったら、俺は大変なことになっていたんだろう。シェラは恩人ということになって、でっかい借りができてしまった。
……いや、本当にそうか? そもそもあの時、シェラが勝手に先を歩かなければ、もっと言えばみんなで仲良く慎重に進んでいれば、俺が追いかけて罠を踏んだりすることもなかったかも。
コイツの自業自得なんじゃねぇか。そう考えた俺の心でも読んだみたいに、シェラはぽつりぽつりと独り言を口にする。
「治療師の服の裾は長すぎた。あれほど引っ掛け回していたら、そのうち罠にかかっていただろうし、敵に襲われたら充分に動けない」
「……だから、ああ言ったのか? もっと言葉の選びようがあっただろうがよ」
「他の言い方を私は知らない。いずれにせ、あのまま連れて行くのは危険だった」
「……もしかして、もしかしてだけどよ。お前、心配して言ってた?」
「…………」
返事が無いのが答えみたいなもんだ。枕を抱いたまま、ポンコツになったエルフはごろんと俺に背を向ける。その肩がゆっくり、しかし大きく動いていた。つらいんだろうよ。
「私は賢者のエルフだ。罠ぐらい見える。無効化しながら進むつもりだった」
「……俺たちの安全のためにぃ?」
「そのほうが早く探索できる」
「……俺を庇ったのは?」
「ヒトは私たちエルフに比べて、か弱い。私なら罠に耐えられる。だが君のような……ヒトには耐えられないことが多い。君のことはなんとかせねばならないと思っただけだ」
「…………」
俺は言葉を失った。呆れてだ。
こんな言葉足らずな奴が存在するなんて。エルフ野郎はみんなこうなのか? お高くまとっていやがるのに、実はか弱いヒトとやらを守ろうとしてるのか?
日頃の言動まで全部そうかはわからないが、少なくとも今日のやり取りに関しては、要するにコイツが「俺たちを心配して」のことだったと判明した。コミュニケーション能力の不足が問題なんだ。だとしたら。
(……やっぱりコイツの自業自得じゃねーか!)
改めて確信した俺に、シェラは小さな声で言った。
「私のことは、放っておいてくれ」
「って言われてもよ」
「おおよその解毒術は使った。一晩、耐えれば治る。私のことは捨て置いて、寝ろ。必要なら睡眠術でもかけてやる。君達は十分な睡眠を取らなければ生きていけない欠陥があるから」
「……お前さあ、なんでそういう言い方しかできないのかね」
要するに、寝ないと健康に良くないって言いたいんだろうよ。いちいち厭味な言い方しかできないだけで。とはいえ、ここまで重症だと喋り方がすぐ改善することも無いだろう。
問題は、だ。
「で? お前はその一晩、眠ってすごせるわけ?」
「……それは無理だろうな。だが私達エルフは君達とは違って……」
「丈夫だから寝なくても大丈夫だって? そういう問題じゃねえだろ……なあ、他に方法は無ぇのか。その……例えば、オナるとかよ」
「オ、…………」
俺の直接的な言い方に困惑したような反応をして、しばらくシェラは黙った。
「それとかよ、セックスしたくてたまんねえんなら、したら楽になったりしねえのか。街まで行かなくても、酒場にだって商売女ぐらいいるだろ」
「…………」
それからしばらくして、シェラはそれはそれは小さな声で、言った。
「……て、……れない……」
「あ?」
「……こ、怖くて、触れない……」
「…………ああん?」
妙なことを言い出す。思わず出た声に、シェラはまたガキみたいに枕に抱き着いた。
その反応に、俺はものすごく嫌な予感を覚える。俺は数多い弟たちのことを思い出した。アイツらも思春期が近付いてきて、肉体の変化に戸惑うと困ったように相談してきたもんだ。その時はやりかただけ教えて、あとは放っておいたもんだが。
目の前のコイツがこうなってるのは、まあ半分俺のせいでもある。じゃあ寝てろよ、とほったらかすわけにもいかない。俺はワシャワシャと自分の頭を掻いてから、どっかりと奴のベッドに腰かけた。
ひ、とそれだけでシェラが声を上げて、よじよじとベッドの上で蠢く。俺はシェラに後ろから引っ付いて、とりあえず枕を引きはがそうとした。
「あ、だ、ダメだ」
「いいから離せって。どういう状況か確認する」
「やめろ、私のことは放って……、ッ!」
取り上げられそうになった枕に気を取られている隙に、するりと腕を滑り込ませて、シェラの脚の付け根に触る。それだけでシェラはびくんと跳ねて声も出せなくなっていた。そして俺の手の中のソレときたら、そりゃあもう熱く、固くなっている。
「こりゃこのまま寝るってのは無理だぞ、シェラ」
「……ぅ、うるさい……! 君には関係な……ぅあ、あ、待て、やめろ……っ!」
制止するのを無視して、もぞもぞと下着の上から撫でてやる。シェラは言葉とも唸り声ともつかない何事かを喉から出して、丸まろうとした。その身体を枕ごと抱きしめて、脚も絡めて無理矢理開かせる。
「よ、よせと言っている! やめ、や、ぁ、あ、ダメ、だ……っ」
「ほら、いい子でじっとしてろ。そしたら早く終わるんだから」
「そんなこと、頼んでない、離せ、触る、な、あ、あぁ……っ!」
言葉より身体のほうが素直で、下着ごしに形をなぞって擦り上げると、抵抗が弱くなる。シェラは枕に顔を埋めて、耳の先まで赤くし震えるだけになった。そうなればやりやすい。
肌触りの良い下着の中に手を滑り込ませる。直に触ったソコは熱くて、俺の指をビクリとしながら歓迎した。既にぐっしょり濡れているから、きっと相当我慢をしたんだろう。すまし顔で放っておいてくれと言っていたが、かなり辛かったのだと想像がつく。
現に、離せとか触るなとか言っていたシェラは無抵抗になってしまった。本心ではなんとかしてもらいたかったに違いない。女を気持ちよくするのは面倒なものだが、同じ男ならヒトもエルフも似たようなものだろう。どうせこの辺りが気持ちいいのだ、と裏筋を撫でる。
「ぅ~~っ、ん、んぅ……っ!」
それだけでくぐもった声が聞こえる。シェラの太腿が、全身がびくりと跳ねるのは、意外と気分がいい。自分が相手を気持ちよくしているのだ、という実感は楽しいものだ。
それに、実を言うとシェラの見た目だけは最高に良い。男女ともに凛とした美貌を持ち合わせる種族だ。付いているものが違うだけで、男だってヒトのそれに比べたら遥かに美しく、十分に性欲を満たせそうな容姿をしている。問題は、彼らがあまりにもヒトを見下すこと。
しかし、今のシェラは違う。俺を見下すこともできずに、腕の中で震えているのだから。
それは暗い劣情と共に、俺の中に一種の愛しさをも生んだ。
「いい子だ、男ってのは出せば楽になるからな。我慢すんなよ」
「ーーッ、ひっあ、待てっ、やめ、ラ、ルフ……ッ!」
くちゅくちゅと音を立てて先端を撫でてやると、シェラが首を振って俺の名を呼ぶ。そのことに驚いた。コイツ、俺の名前を覚えてたのか。いつも「ガリア」とか「君」としか呼んでいなかったのに。
こんな時にだけ、いやこんな時だからこそ、思い出したように名前を呼ぶのか。俺は知らぬ間に笑みを浮かべていた。
「今やめたら逆につれえだろうが。ほら、手伝ってやってんだから、早く出せ」
「……っ、ぃ、……むり、だから……っ」
「なんで無理なんだよ」
「ひぁ、……ぅ、あ、あぁあ……っ!」
濡れそぼった竿を扱くのは容易くなっていて、一定のリズムで擦ってやる。男が気持ちよくなるのにどうしたらいいかなんて考えなくてもわかるのだ。親指の腹で先端やその割れ目を撫でてやると、いよいよ甲高い声でシェラは鳴いた。
しかし、確かになかなかイかない。気持ち良いだろうにな。
そう考えながら続けていると。
「……っ、いや、いやだっ!」
「おおっと」
急にジタバタと暴れ始めて、俺は思わず手を離した。その隙にシェラはベッドにうつ伏せに逃げてしまう。その背中が、ハァハァという荒い呼吸と共に揺れている。長い金色の髪が流れてひどく色っぽかった。
「なんだよ、やめたらお前だって辛いだろ」
「…………っ」
「シェラ」
なだめるように背中を撫でると、シェラはそれだけで震えながら、おずおずと俺の顔を見る。
その金色の瞳は涙に濡れきって、視線は弱々しい。紅く染まった頬も耳も、彼が快感の渦の中にいることを証明している。汗ばんだ額に、金糸が僅かに張り付いていて、乱れきった様子がなんとも言えず、そそった。
しかしそれを表に出すと、なんだか負けのような気がして。俺は平静を装って問いかける。
「それともなにか。本当に嫌だからやめろってことか?」
「……そ、れは……っ」
「あー、わかったわかった。そんなに嫌なら俺も無理強いはしねえよ。悪かったな、触って。じゃあ俺はこの部屋を出て行くから、ひとりで頑張ってくれや」
わざと冷たく言って、ベッドから出ようとする。くんっと服の裾が引っ張られた。振り返ると、シェラの長くしなやかな指が、俺の服を摘んでいた。
まるで「行かないで欲しい」とでも言うように。
「……なんだよ」
その意図をわかっていて問う。シェラは視線を泳がせて、小さな声で「いやだ」と呟いた。
「嫌なんならやめるって」
「ち、がう、……や、やめるのは、困る……」
「じゃあ続けたらいいのか?」
「……そ、れも、困る……」
シェラは泣き出しそうな表情を浮かべている。俺はわざとらしく溜息をついて、奴の背中を撫でた。それだけでゾクゾクするらしい、シェラは震える吐息を漏らす。
「わかった、交換条件だ」
「……条件……?」
「俺はお前のそれをなんとかするのを手伝う。その代わり、お前は俺の言うことを聞け」
「……だ、だがそれでは、困る……」
「条件が呑めないなら、俺は部屋を出る」
「…………っ」
シェラが悩んでいる。俺は少しして、立ちあがろうとした。もちろん焦らせるためだ。思ったとおり、シェラは「わ、わかった」と俺の腕を掴む。
「……い、言うことを聞く、だから続けて……いや、だがその、あれは、困る」
「……さっきから言ってる、困るってのはなんなんだ?」
尋ねると、シェラは顔を背けた。
「……し、刺激が、強すぎて……」
「………………ほほーん?」
その言葉に、俺はニヤニヤしながらシェラを抱き寄せる。
「気持ち良すぎて、イけねえのか?」
「…………っ」
単刀直入に言い換えてやったが、シェラは否定しない。顔を赤く染めて、目を閉じるだけだ。なるほどなあ。俺は納得して、シェラの耳元で囁いた。
「じゃあ、言うことを聞け。俺が何をしても逃げんな。その気持ち良すぎんのを思う存分味わえよ」
シェラが、びくりと震えた。
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