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ブルームーン 2

 だから二度目は友達の家に泊まると言って、ホテルを断った。  だけど、泊めてくれる友達なんてもちろん俺にはいない。だからしっかり下調べをしてから二十四時間営業のネットカフェで一夜を過ごした。  前もって調べておいた店では、リクライニングできる大きな椅子に寝そべって、ずっと前に中断していた漫画の続きを完結まで読んだり。飲み放題のドリンクを飲んだりカップラーメンを食べたり。  ホテルにいるよりもずっと有意義に楽しく過ごすことができた。  ただ、与一さんに嘘をついてしまった、っていう事だけが少し心に引っかかったけれど。  でも、ネットカフェに行くなんて言えば、与一さんはまた強引にホテルを予約してしまいそうだから、黙っている方がいい気がした。  そして、今夜は三度目だ。  さっきからどうして与一さんが俺を心配してついて回っているのかと言うと、これが今月二度目の満月だからだ。満月は、必ず月に一度というわけではないらしい。周期が三十日ぴったりではないから、ときどき月に二度の満月が来ることもある。  月の満ち欠けを与一さんが操っているわけじゃないんだから、そんなに気にすることないのに、与一さんの気が済まないらしい。  だからさっきから俺のそばに来ては大丈夫かと、何度も尋ねて来る。  大丈夫って聞かれて答える気持ちは嘘じゃないんだけど、存在しない友達の所に行く話は完全に嘘だから、もうこれ以上追求しないで欲しいと思ってしまう。  それにしても、月に二回も集まるなんてほんとに仲良しだな、と思う。  俺は後ろめたさに耐えられなくなって、与一さんに挨拶すると部屋に上がった。  予約したナイトパックは八時からだから、それまで時間を潰す必要がある。  一緒にご飯を食べる友達や恋人がいたり、趣味のために欲しいものがあったり、欲しい服があったり。お店を見て買い物をしているだけで時間が過ぎていくような。  自分もそういう人だったらよかったのにと思ってしまう。ないものねだりだ。  ホームパーティをするのなら、準備も大変だろうし、手伝いを申し出たこともあった。料理だってなんだって、与一さんの方が上手だけど、何かしら出来ることはあると思う。  だけど、持ち込みやケイタリングで与一さんが料理するわけでもないし、特に準備することもないらしい。それに、親戚の人たちは個性的で厄介だから、乙都君は会わないほうがいい。なんて助言までされてしまった。  冗談だと思って笑ったのに、与一さんは笑ってなかった。  とにかく、家を空けてくれっていうくらいだから、厳格な集まりで部外者立ち入り禁止、俺なんかがのろのろと家にいて出くわしたらまずいんだろうと思った。  きっとそれをオブラートに包んで伝えてくれたんだな、と理解した。  さっと用意を済ませて与一さんに挨拶をすると、家を出た。  ムーンライズのことを、家って心の中で呼ぶようになったのは、いつからだろう。

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