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ブルームーン 3
時間を潰すためにファミレスで夕食を取ることにした。
ちょうど夕食どきで、店内には人がたくさんいる。運よく空いていた席について、タッチパネルのメニューを手に取る。
ファミレスなんて来たの、何年ぶりだろうか。いつのまにこんなにもハイテクになって。なんて、浦島太郎みたいな事を思う。
ふいに、隣のテーブルから小さな子どもの泣き声が聞こえて来た。
思わず目をやると、まだ赤ちゃんみたいな小さな男の子がテーブルに盛大に水をぶちまけていた。
「まーちゃんっ、大丈夫?」
隣に座っているその子のお母さんが声をかけているけれど、男の子はただ泣いているだけだ。泣き声はどんどん大きくなる。
ハイテク化が進んだからか、店員さんは少なくて、すぐに声を掛けられる距離に誰もいない。
見回すとすぐ近くのドリンクバーに自由に使えるダスターが置いてあったから、俺はそれを取りに行った。
「大丈夫?」
テーブルに広がる水をダスターで拭き始めた時に、男の子が目を丸くして俺を見ているのに気がついた。その隣にいるお母さんも。
そこで、ハッとした。
ここは、ムーンライズじゃなかった。
違うのに、俺は思いっきり出しゃばってしまった。
声を掛けて、使ってください、とか言えばよかったのに。ずいっと距離を縮めて世話を焼くなんて、かなり変だ。
涙を溜めたまんまるの目で俺をみつめる男の子。そりゃあ、びっくりすると思う。俺だってしてるから。
「あ、の、すみません」
急に申し訳ない気持ちになって口から勝手に謝罪がこぼれた。
「いえっ、ありがとうございます、すみません」
「あ、いえ」
ハッとしてしまったから、今度は気まずくなってしまった。相手のお母さんの顔もろくに見られずに、ペコペコしてしまう。
ここから適当な会話を紡ぐことは、俺には相当ハードルが高い。
「あ、ダスターもっといりますか? あそこにあるんで」
「あ、ありがとうござ……おと、」
「え?」
「乙都くん?」
「え? はい……え、美沙ちゃん?」
「乙都くん!」
「美沙ちゃん!」
美沙ちゃんだ!
お互いに顔を見合わせて名前を呼び合った後、どちらともなく吹き出して、笑い合った。
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