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ブルームーン 7

 暗くなった街中。人気の少ない住宅街を抜けて、人通りの多い通りに出ても、走って、走って。  駅の近く、帰りを急ぐように歩く人の間を縫うように、息が切れて足がもつれても、走り続けた。  無様にダッシュする俺を、何人かの人が振り返ったけど、それも気にならなかった。息ができなくなって、足を止めて道の端にしゃがみ込んだ。冷たい空気が肺にスッといきなり入ってきて、激しく咳込む。  頭が真っ白になれば、今見たことが全部夢になるんじゃないかって思った。  だけど、瞬間的にしっかりと焼き付けてしまった光景は逆にどんどん鮮明になって、目を閉じてもはっきりと浮かんでしまう。  そんなわけない。絶対に見間違いだ。  震えているのは酷使された膝だけじゃない。目的地に着いて、ネットカフェで手続きをする時も、指が震えて上手くスマホを操作できなかった。  個室に入って鍵を閉めて、リクライニングチェアに座ると、体を投げ出して放心状態でしばらく動けなくなった。  背もたれにだらんと体を預けたまま、瞼の裏に鮮明に焼き付いた光景の、細かいディテールを、もう一度観察してみる。きっと、なにかの間違いだ。間違いじゃなきゃ……。

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