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ブルームーン 8

 俺は好奇心を抑えられずに、ほんの少しだけパーティーを覗いてみることにした。カウンターの上にはお酒の瓶がたくさん並んでいるし、その間から少し覗いても、誰も気が付かないだろうし、少しくらいいいんじゃないかって。大音量の音楽に身を任せて踊ったり、話したり、お酒を飲んだりしてるんじゃないかって想像して。そんな楽しげな与一さんを見てみたかった。  もしも見ていることがバレてしまったとしても、与一さんなら許してくれる。そんな甘えた考えが、頭に浮かんだ。  けれど、視界に飛び込んで来たのは、想像を遥かに超えた光景だった。  半裸の男女が絡み合う。フロアの色んなところに、幾人もの人たちが。ほとんど裸で、抱き合ったり、寝そべったりしていた。それに、大きな音楽に嬌声が混じっていることに、その時初めて気がついた。  あまりにも驚いて目を離せなくて。さらに瞬間的に、与一さんを探してしまった。  与一さんは、少し離れたソファに仰向けになっていた。その上に、ほとんど裸の女の人がまたがって、恍惚の表情を浮かべている。与一さんのシャツははだけて、その胸の白い肌が艶かしく光を反射していた。  直ぐにここを離れないと。そう頭では分かっているのに。心とは裏腹に与一さんをじっとみつめてしまう。  女の人とは対照的に、与一さんは、抜け殻のように熱のない瞳で宙を見つめている。  少し離れていても、分かるくらいに、与一さんは楽しそうには見えなかった。  人の情事を盗み見て、そんなことを考えている場合じゃないのに。その違和感が気になって、与一さんから目が離せなかった。そうして気がついた。与一さんの口元に、キラリと光を反射する何かが。まさかなって気持ちが拭えずに、瞬きを繰り返してよく目を凝らして見てみる。  だけど、与一さんの上に乗っている女の人の顔も、そうだった。  コスプレ乱行パーティー……なんだと言い聞かせて、目視できる人たちの顔を順に見た……。  俺は腰が抜けてまともに歩けなくなって、四つん這いで通路を抜けると、来た時と同じようにドアをそっと出た。  その後、ネットカフェまでただ走った。  乱行パーティーだけでも、驚きすぎたのに、与一さんたちに尖った牙があるなんて、そんなの、ありえない。  ありえないに決まってるのに、頭の中に何度も残像が浮かんで来る。

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