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第10話
「無事に交渉が成立したようだな」
裕貴がふらりと姿を現した。
缶コーヒーをぽんと渡された。
「あ、あちぃ」
俺が猫舌だと知っている癖に。嫌味か。じろりと睨み付けると、
「祝杯だ。真っ昼間から酒を呑むわけにもいかないだろう。それに、酔っ払って臥せっている光希の寝込みを襲わないようにするためだよ。龍成、橘」
裕貴が二人にも缶コーヒーを渡した。
「なぁ、裕貴」
「なんだ?」
「那奈は妹だろう。なのに何で橘の共犯者になったんだ?」
「何でと聞かれてもな」
裕貴の口角が微かに上がった。
「那奈には悪いが俺は妹より兄貴のほうが大事だ。兄貴のためなら喜んで死ねる。それは遼成さんも同じだろう。兄貴には誰よりも幸せになってもらいたいんだ。自分のことはいつも後回し。俺らや舎弟や組のためにそれこそ身を粉にして働いている。こんなんで恩返しになるとはこれっぽっちも思わないが、兄貴に最高の嫁さんと可愛い子どもたちをプレゼントしたいんだ。だから、橘の共犯者になることに決めた」
「未知にひろお兄ちゃんって呼ばれたいだけだろう?」
「それは遼成さんだって同じだろう。りょうお兄ちゃんって呼ばれたい癖に。相変わらず素直じゃないよな」
「う、五月蝿いな」
裕貴も橘と同じで痛いところをつきやがる。参ったな。
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