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第10話 Erzählen Sie mir davon

 しばしその場で呆然としていたが、どうにか重い身体を引きずり、寂れた修道院へと向かう。  Michal……? と門扉に書かれているのが辛うじて読み取れるが、古い建物は天井すらも崩れ落ち、聖母子像もわずかに足元が確認できるかどうか、といった状態だった。  祈らねばなるまい。  罪を、懺悔せねばなるまい。 「主よ……私を、お赦しください……」  膝をつき、祈りの言葉を口にする。  声が掠れているようにも感じたが、構わず祈り続ける。 「私も……私も、人を……許します……」  無理にでも言葉を絞り出し、未だ渦巻く激情にどうにか蓋をする。  許さなければ。許さなければ。許さなければ……  司教様は、今の私をどう思われるだろうか。誰にでも気さくに接した修道女ニーナは? 厳格な修道女イザベルは?  ……あの外道は……司祭エマヌエルは、またしても嬉々として嘲笑うのだろうか。 「神父様」  肩を叩かれて初めて、ヴィルが近くに来ていたと気付いた。 「地下室に戻りましょ。血も手に入ったし……これで、しばらく篭もりやすくなりました」  優しげな声に、思わず涙腺が緩む。 「傷は」  震える声を隠し、尋ねた。 「かすり傷っすよ。なんなら、後で舐めます?」  その言葉には適当に返し、立ち上がる。うっかりふらついたところを、ヴィルに受け止められた。  抱き締められ、髪を撫でられ……凍えた心身が、優しい温もりに包まれる。  もう、耐えられなかった。 「ぅ……、うぅうう……っ」  脚の力が抜け、崩れ落ちそうになる。  ヴィルに支えられたまま、私は、声を殺して泣いた。  ***  ランプの炎が揺れ、地下室に壁に重なった影が映り込む。  たくましい腹の上に(またが)り、彼の愛を乞うた。 「あっ、ァ……うっ、あぁあっ」  ヴィルは私の腰に手を添え、下から突き上げる。 「ぁあッ! 」 「ココ、好きっすねぇ」 「……ッ、い、言うな……っ! んぅうっ」    淫猥な水音を立て、ヴィルの男根が私の内側を抉る。 「……は……、いつでも、イッて、良いっす、よ……っ!」  小刻みに突き上げ、腰をなぞり、腿を撫で回し、ヴィルは私を絶頂に導かんとする。  胸元でロザリオが揺れ、音を立てた。……理解している。この快楽が、どれほど罪深いことか。  それでも…… 「あ……っ、アッ、はぁっ、はげ、し……う、ぁあっ!」  下から突き上げられるたびに喘ぎが漏れ、思考が悦楽に塗り潰されていく。  ヴィルは私の最奥を一突きし、屹立(きつりつ)したままの怒張(どちょう)をずるりと引き抜いた。 「あぁッ」 「もう……っ、出ます……!」  責められていた孔が、ひくつくのがわかる。……名残惜しいと、まだ貫かれていたいと、(よこしま)な思考を懸命に振り払った。  胸元のロザリオを、汚れないよう握り締める。  そうして、私はヴィルの男根に舌を這わせた。 「ぅ……あっ、出る……っ!」 「……っ! ふっ、ん……んく……」  喉奥に咥え込み、溢れ出る精を飲み下す。  むせ返るほどの雄の匂いに、心地良さすら感じてしまった。  ヴィルの精は粘度が低く、量が多い。舌触りは滑らかで、味は多少の生臭さがあるものの濃厚で癖になる。以前の傷の癒え方を思うに、栄養価も高いのだろう。 「……まだ、イかせてなかったっすね」  勃ち上がったままの私自身に、ヴィルがそっと触れる。  びくりと震える私のそれを、ヴィルの武骨な手のひらが優しく包み込んだ。 「チンコでイきたいっすか? ケツのがイイ?」 「……ぅ、あ、ぁ……っ!」  上下に扱かれ、思わず腰が揺れてしまう。  ……この言葉を、口にして良いものか。淫らな夢に溺れることを、認めてしまって良いものか。 「……う、後ろが……疼く……」  ………ああ。  主よ、お赦しください。  苦痛に耐えられなかった私を。  快楽を欲する私を。  罪と知りながら、彼に抱かれる私を……。 「ケツ? じゃ、挿れますよ」 「な……っ、も、もう勃っ……!?」 「や、もう……エロすぎて……っ」  四つん這いの状態で、背後から挿入される。ロザリオが汚れないよう、必死に握り締めた。  ヴィルは自らを最奥にまで届かせ、私の男根を手で握る。 「く、ぅ……っ、ん、あ……ぁあっ!」 「……次は、ナカでっ、いいっすか……!」  耳元で囁かれ、肩が大きく跳ねたのが自分でもわかる。  精を……糧を欲するように、ヴィルを咥えこんだ後孔が収縮する。  中に欲しい。一瞬、そう思ったが、かぶりを振って思い直した。「その快感」を覚えてしまえば、今度こそ、戻れなくなってしまう。 「そとが、いい」 「くッ……分かり、ました……! 子作り……はぁっ、今度に、します!」 「だ、から……っ、私はおと……あぅうぅうッ!?」  最奥を責め立てられ、目の前が真っ白に弾け飛んだ。  ベッドに額を押し付け、強すぎる快感をどうにか受け流す。 「ふ、ンッ……ぅ、あ、ぁあ……っ、お赦し、ください……! おゆるしください……っ」  神に赦しを乞いながらも、激しい快楽に溺れていく。  凍えきった身体は、ヴィルの手によって心地の良い熱に満たされた。  たくましい胸板に頬を寄せ、(つか)の間の安らぎに身を委ねる。 「……今後のことを、考えねば」  ……だが、いつまでも休んでいるわけにはいかない。  またしても、易々(やすやす)と拠点を暴かれてしまったのだ。どうにか、対策を考えねばなるまい。 「明日でいいじゃないすか。今は休みましょ」 「だが」 「怪我の方、先に癒さねぇと」  ヴィルの言葉にはっと気が付き、彼の腕の生傷に視線をやる。  そうだ、ヴィルは人間なのだ。……傷の治りの速度は、今の私に比べれば段違いに遅い。 「そう、だな……かすり傷とはいえ、銃弾を」  迂闊(うかつ)だった。かすり傷とはいえ、銃弾による負傷だ。周囲が火傷のようになっているし、痛みもそれなりに…… 「いや、そっちじゃなくて……」  だが、違った。  胸の中心に手を当てられ、残された傷痕が温かい手のひらに包まれる。身を強ばらせる私に、ヴィルは優しく語りかけた。 「もっと、見えないトコ。酷い怪我してんでしょ」  ヴィルの言葉は、胸の、更に奥深くの傷をも包み込んだかのように思えた。  思わず涙がぼろぼろと零れ落ち、嗚咽(おえつ)が漏れ出しそうになる。  咄嗟(とっさ)に口を手で抑え、顔を逸らす。……泣き顔は、見られたくない。 「オレ、そばにいますんで」 「……ああ」  ヴィルの言葉に応えた声は、震えていた。  胸と腹の傷痕に優しい口付けが落ちてくる  慈しむような腕に抱かれ、意識が眠りに(いざな)われていく。  ……主よ。  この愛は、この温もりは……  本当に、罪深いものですか?

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