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第14話

ミサキは病院から新しい学校へ向かった。 不安はあった。 だけど、ベータに襲われた経験はミサキにこのままベータの世界にはいれないと思わせたし、納得はしていないけれど、アルファが自分には必要なんだろうな、とは考えられるようになった。 ユキ先生の運転で向かう。 助手席からはユキ先生の酷く焼け爛れた顔の方だけしか見れなかったけど、もうミサキは先生のその顔も好きだった。 じっと見る。 それに気付いた先生が苦笑した。 「こちら側の顔も好きになってくれたのはミサキで2人目だよ」 先生の言葉に何となくその最初の一人が、先生の番だったんだろうな、と思った。 「先生は自分の番が好きだったの?」 過去形。 アルファはオメガを、番にしたオメガを手放すことはない。 「愛してなくても」だ。 その執着は愛以上に凄まじい。 例えば愛したオメガがいたとしてでも番にしていなかったとしたら、そのオメガ以外と番になってしまった場合なら、心は愛したオメガを思ったとしても、執着は番にしたオメガに向けられる。 執着は本能なのだ。 だからこそ、アルファは2人の番をつくることはない。 それをすると、アルファの精神が崩壊してしまう。 それ程までの執着を持つからこそ、アルファも番をつくることには慎重なのだ。 オメガとの関係性が最悪なまま番になってしまうのは避けたい。 憎まれようと憎んでいようと、アルファは 番に執着し続けてしまうのだから。 アルファがオメガを大切にしようとするのは、自分を守るための本能でもあるのだ。 同時にアルファはオメガを強く求める。 それもまた本能。 「番」にたいする執着は何よりも優先されるが、番ではなくてもアルファはオメガには固執しやすい。 番になることを断り、顔を薬品で焼かれたユキ先生がまさにその証明だ。 滅多にはないことではある。 そんなアルファをアルファが1番赦さないから。 ユキ先生を傷つけたアルファはすぐに殺された。 アルファ達によって。 しかしユキ先生の顔が戻るわけではない。 だが。 ユキ先生はその後、番を得たのだ。 焼けた顔すら愛してくれた番が。 番を好きだったのか、というミサキの言葉にユキ先生は少し笑った。 苦さと甘さと悲しみがその笑顔に見えた。 「好きだよ」 ユキ先生は言った。 現在形。 まだその人だけが好きなのだ。 ミサキは切なくなる。 アルファは番が死ねば新たに番をつくれるが、オメガには生きている限りただ一人しか番はない。 でも。 焼かれた顔すら愛してくれるような番なら。 番をつくらなければならないなら、そういうアルファの方がいい。 「ミサキ、良いアルファを見つけて。でも、それは自分が生きるためだよ。ミサキはミサキとしてやりたいことをやればいい。・・・別にアルファを愛さなくてもいい。愛してるってそんなに意味がないんだ。アルファとオメガの間には。良い関係は大切だけどね」 先生はミサキに言って、車が止まった時には髪を撫でてくれた。 自分は番だったアルファを今でも愛しているくせに。 ミサキはまだ。 先生の焼けた顔の意味も、オメガであることの意味も、アルファが必要であることの意味も、 本当には分からなかった。 山の中の、隔離された学園。 ここでミサキはそれについて知ることになる。

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