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第15話

「アキラ、待て!!」 ユキ先生はまるで犬に命令するように言った。 でも、とりあえずそれで、アルファは止まった。 車を降りたミサキの前に飛び出してきたのだった。 そのアルファは。 ものすごい勢いで、巨体が小さなミサキにぶつかるかのように。 でも止まった。 だがミサキは悲鳴をあげた。 ピタリと止まったアルファは狼狽えた。 「違う・・・オレは、ただ。ただ、声をかけようと・・・」 オロオロとした声で目を泳がせてアルファは言う。 だが動かないように言われたからか、手の指1つ動かさない。 「何時間前からここで待っていた?そういうことはしないと約束しただろう!!アキラ!!」 先生が叱る。 この学園で学ぶ生徒であつても、アルファはアルファ。 子供として扱われることはないはずなのに。 先生は子供、いや、犬でも叱るようにそのアルファ、アキラに言う。 「大丈夫だよ、ミサキ。怖がらなくていい。お前に会いたくて仕方なかったたけだ。部屋に侵入ももうしないし、お前の許可なく触ったりもしない。お前の周りをウロウロすると思うけと、デカイ犬くらいに思ってやれ」 ユキ先生は嫌そうに言った。 頭を抱えて、呆れているのがわかる。 誇り高いアルファなはずなのに、そのアルファは何も言い返さなかった。 むしろ、項垂れて、今にもミサキに跪きそうだ。 「この前は悪かった。すまない。怖がらせてごめん」 必死な目をして言われた。 それが言いたくて、ずっと駐車場で待っていたらしい。 その日のいつ、ミサキが来るのかはわからないのに。 すがりつくような金色の獣の目。 ミサキは前程は怖くないかも、と思った。 でも。 怖いことは怖い。 こんなにも欲しがられているのが分かることが怖い。 「・・・それはもういいよ。でも、あんなことはしないで」 ミサキは言った。 仕方ない。 同じ学園の生徒なのだ。 敵対することもない。 だけど、オメガとして求められている、ということはミサキにとってはまだ恐ろしいことだった。 だから、先にハッキリ言っておこうと思った。 「オレを番にという話だけど・・・」 断っておこうと思った。 いずれ番をみつけるとしても、それはこういう怖さのある相手じゃない、と思ったのだ。 「待ってくれ!!確かに番にしたいと思って申し込んだけど、断るのは待ってくれ!!時間をくれ、もっとくれ!!」 深い低い声がミサキを遮る。 大きなアルファが膝をつく。 まだ11歳のミサキには大きすぎるアルファが。 ミサキの目を獣の目が覗き込む。 その目に痛みを感じてミサキは怯む。 このアルファはミサキに拒否されるのが怖いのだ。 「俺を知ってくれ。お前のためなら何でもする。俺を知ってから・・・もっと考えてから・・・返事を・・・」 アルファ、そうアキラは震える声で言ったのだ。 こんな大きなアルファが自分に拒否されるのをここまで怖がるなんて。 ミサキは呆気にとられた。 アルファにとってオメガを得るってどういうことなんだろう。 また匂いがした。 安心できて、不安になるあの匂い。 「・・・分かった。でも、もう、怖がらせないで」 ミサキは言った。 そう言ったのはその匂いから逃げたかったからかもしれない。 その匂いに包まれたなら、違うことを言うかもしれないと思ったのだ。 この匂いは危険だとミサキは悟ったのだった。 「俺はアキラ。とにかく俺を知ってくれ!!」 ミサキの手を握りはしなかったけれど、アキラは見えない尻尾を喜んで振っていた。 断られるのを避けただけで、この喜び様。 ミサキは戸惑うしかない。 アキラは不意に笑った。 それには確かにおなじ年頃の少年が見えた。 このアルファも、少し前までは普通の少年だったのだ。 ミサキのように。 それがわかった。 少しミサキは安心した。 「また明日、ミサキ!!」 アキラはそういうと走って去っていく。 数メートルはある高い駐車場のフェンスを助走も無しで飛び越えて。 やはりアルファは化け物だ。 でも、はしゃいでいるのが分かった。 そこに、ミサキはなんだかまた安心して。 少し笑ってさえしまった。 ユキ先生は黙ってそんな2人を見ていた。 先生の目には不安があったが、ミサキにはそれが見えなかったから、知ることはなかった。

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