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第18話
アキラは正直に言えば、幼いオメガ達に恐がられていた。
アルファに年齢は関係なく、アルファはオメガと違って完全な成体である、とされてはいる。
アルファ達の転化はオメガのそれとは違い、本能や身体の機能、そして、知識にまで及ぶもので、人間から人間外になるようなものだからだ。
ベータの子供だった記憶を持つ別の何かになる、といのが正しい。
だが、まだ経験が少ない分、子供だった記憶に引きずられるため、子供っぽい言動が見られる若いアルファ方が幼いオメガには親しみやすい。
だが、アキラに関しては違った。
アルファにしても大きいし、なにより無愛想だった。
オメガに対して本能的にアルファは優しいが、アキラは淡々としていて、いわゆるアルファがオメガにみせる友好的な態度からは程遠かったからだ。
群れることをしないアルファはアルファ同士で連むことはあまりないが、にしても、アキラは極端に一人だった。
だが、まだ番を得てない年長のオメガ達から注目されていた。
「アキラは強い。なにより優秀だからね」
アキラを狙う先輩オメガが、これみよがしにミサキに言う。
ミサキに話しかけこそしないけれど、アキラが常にミサキの周りをウロウロしているのはだれの目にも明らかだったからだ。
狙っている先輩としては面白くなかったのだろう。
どういうアルファが良いのか、は番のいないオメガの1番の話題でもあった。
「死なないアルファが1番いい。何より生き残れるアルファを探さないと」
先輩はそう言った。
幼いオメガ達はキョトンとする。
どういう意味?
「アルファは自分が死ぬ時、オメガを連れて行くことが多いんだよ」
アルファの番への執着は、死のその時まで続き、一人では死なないアルファは沢山いるのだという。
アルファの死は、その、ベータよりは短命な寿命や、事故からもあるが(病死の例はかなり少ない)、何よりアルファ同士の争いの結果からが多い。
さすがに現代では肉体を使って殺し合うことはないが、敵を死ぬまで追い詰めることはアルファなら当然するのだ。
そして、アルファにとって全てのアルファは敵なのだ。
アルファは生き残るために戦わないといけない。
この社会の支配者であるアルファは、同時に凄まじい闘争の中で生きている。
そして、闘争にこそ意義を見出している。
それがアルファなのだ。
「長生きしたければ、強いアルファをえらばないと」
その先輩のアルファを選ぶ理由はリアルだった。
直接肉体同士でやり合うことは自分達で禁じたアルファだが、直接じゃなければ、相手へ暴力を仕掛けることはある。
だからこそ、「強い」アルファというのはオメガにとって必須条件なのだ、と真顔で言われた。
そして、アルファは死の間際までオメガに執着する。
連れて行こうとする。
死の先にまで。
子供がいれば子供にもアルファは執着するから、オメガを生かすこともあるが、それでも連れて行くアルファは多い。
「長生きするアルファが良いアルファだよ」
先輩の言葉にオメガ達は震えあがった。
それまでは「より良いアルファ」は自分に良くしてくれたり都合が良いアルファだと思っていたが、それとは違う視点に幼いオメガ達は色々考え直す。
自分に良くしてくれていても、そのアルファが死ぬ時に自分を道ずれにするのだと思えば、長く生きられるアルファであることも選ぶ理由になっていく。
「・・・それでも、アルファがいた方がマシなんだよ。オメガが一人で生きていける社会じゃない」
先輩の目はどこまでも醒めていた。
その目はオメガの目なのだ、と思った。
ミサキは辛くなる
アルファのためにしか存在していないオメガ。
そんなの辛い。
でも。
「なりたいものになりなさい」
ユキ先生の声。
ミサキは。
自分が自分として生きるれるように、アルファを得るとしても、そのために選ぼうと決めた。
アルファとオメガの間に執着と欲望と必要以外ないんじゃないかと、ミサキには思えた。
それでも。
若いオメガ達は。
恋するようになる。
そして、ミサキもまた、そうなるのだった。
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