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第19話

この学園に来てから3年。 まだミサキには番はいない。 ミサキがどうしてもその気になれないというのと、アキラのせいだった。 アキラはミサキに近寄るアルファを徹底的に排除していた。 そのくせ、相変わらず自分からは話しかけない。 ミサキがこちらに気づくと視線を隠すのも変わらない。 毎日、ミサキの靴箱には小さな野の花や、たまに小さな折り紙で作った鳥や花が1つ入っている。 これを入れたのはアキラなのは間違いなかった。 裏の山で摘んだ花はまだ分かるけど、なんで「折り紙」? とはミサキは思ったが、 小さな折り紙は精巧で繊細で、美しかった。 アルファらしくない贈り物だった。 学園のアルファ達は「ビジネス」をもうはじめていて、アルファとしての競争を行っている。 アルファ達には金ならいくらでもある。 こんな贈り物はしない。 でも。 野の花や折り紙に、ミサキはなんだかホッとした。 あの大きな指で小さな花を摘み、小さな折り紙でこれを折ってるの? とてもそんな繊細なことが出来そうに見えないのに。 ミサキは気に入った折り紙は寮の自分の机に飾った。 この贈り物は。 悪い気がしなかった。 アルファとは関係のない能力だ。 折り紙は。 アルファがアルファになることで得た能力に、この折り紙ははいってない。 これは、まだベータだったアキラが持っていた能力だったんだ、そう思った。 そして、決して自分に近寄ってこないアキラに、安心も覚えていた。 アキラのお陰で、アルファに悩まされることがないのも確かだし。 幼いオメガ達の中には狡猾なアルファに絡め取られていくオメガもいて、良く考える前に番にされてしまうことに同意させられた者もいたからだ。 アルファ達は強要などしない。 でも、未熟な若いオメガは狡猾なアルファのその手に落ちてしまうのだ。 言葉巧みにベッドに連れ込まれ、セックスの良さを教えこまれ、番になることを承諾してしまう。 そして、項を噛まれ、生涯離れられなくさせられる。 それをミサキはめの当たりにしてきた。 同級生達の何人かはそうなった。 優しく油断させて、部屋に連れ込み、触るだけのことから初めて、気が付けば裸に剥かれてイカされて。 まだ性に未熟だからこそ、「挿れたい」と言われても拒否できない。 受け入れさせられ、中での良さを教えこまれ、「愛してる」と繰り返し囁かれ、気が付けば承諾させられて。 わけがわからない内に項を噛まれて。 番が成立してしまうのだ。 「どうせ選ばないといけなかったんだから」 とオメガ達は後悔しないように自分に言い聞かせる。 それに。 アルファとのセックスはたまらなく良かった。 恋という恋も知らないで、オメガ達はアルファにおちていく。 ミサキは悟る。 ここはアルファのためのオメガの農場なのだ。 オメガの選択肢はあるようで、ない。 まだ子供のオメガと大人の狡猾さを持つアルファとでは対等ではない。 精神的に幼いオメガ程、アルファに直ぐに番にされていく。 それでも、確かに。 オメガにはアルファが必要である以上、「誰でも同じなら」これでいいのかもしれない。 少なくとも、強要はされていないのだし、知らない誰かではないのだから。 ミサキは小さな折り紙を見ながらため息をつく。 「俺を知って欲しい」 そう言うアルファは、アキラぐらいかもしれない。 寮の部屋の外を机の傍にある窓から見下ろす。 ほら。 やはり。 窓を見上げはしていないが、アキラがいた。 ミサキが窓を見下ろすまでは見上げていたのは確かだろう。 慣れてしまえば、こんな風に付きまとわれるのも何とも思わなくなった。 「アルファにしては悪いヤツじゃないよ。ストーカーだけど」 ユキ先生はアキラについてそう言った。 ストーカーな段階で問題では、と思うが、全てのアルファがそういう傾向があるので、それは仕方ないのかもしれない。 でも。 アキラはずっと守ってはいる。 「近寄らない」と。 でも、アキラにはミサキは本能的な恐怖を感じてる。 匂い。 匂いだ。 他のアルファに近付いてもそんなのは感じないのに。 ミサキは考えるのをやめた。 でも、指先で繊細に複雑に折られた鳥、オウムをそっとつついていた。 1枚の紙がこんなに複雑な形になることに感心しながら。 そして、ミサキの恋はもうすぐ始まる。

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