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第20話
ミサキはアキラに声をかけるようになった。
挨拶ぐらいだけど。
「おはよう」
寮から出ると、他の寮のはずなのに(オメガの寮はアルファは立ち入り禁止)毎朝立っているアキラに声をかける。
そこに居ること自体はもうなんとも思わなくなってしまった。
アキラは無表情だった顔に、子供みたいな笑顔をうかべる。
「おはよう、ミサキ」
そう言う。
で、一緒に学校には行くが距離はとる。
とても一緒に学校に行く、といえる距離ではない。
傍から見ると、前後して歩く歩行者がいるだけだろう。
その距離にミサキは安心した。
アキラは不用意に距離を詰めてきたりしなかった。
そこにミサキは誠実さを感じた。
だが、アキラが自分を追い続けてくることに、息が詰まるような気持ちにもなっていた。
いくら待たれたとしても、それはプレッシャーでしかなくて。
まだ14歳で一生の相手を決められるわけもない。
安心感をアキラに覚えても、これが恋だとは思えなくて。
恋などオメガに必要ない、なんてやはり思えなくて。
だけど。
アルファ相手に恋なんか、とも。
ミサキは考えないことにした。
まだ。
まだ。
子供でいさせて。
醒めた目をして、アルファの隣りにいるオメガ達を、見る度にそう思った。
ミサキはこっそり物語を書く。
まだ小説と言えるものではなかったけれど。
その世界ではアルファもオメガもいない。
そして、機械生命体と人類が共存、そして敵対しているその星で。
ミサキはキャラクタ達と共に冒険を繰り広げていた。
物語は、いい。
ミサキは思う。
ここでならミサキは何からも自由だ。
自由に。
自由に。
ミサキはすべてのことから解放されて、物語に没頭する。
寮の部屋でキーボードを打ち続ける。
その窓から見えるミサキの姿を、アキラは飽きることなく寮の外から見つめている。
毎朝の花や折り紙は相変わらずだ。
ミサキの登校に毎朝付き添っているのに、靴箱にはもう花や折り紙が入ってる。
つまり。
1度学校に行って靴箱に花や折り紙を入れてから、ミサキを迎えにきているのだ、ということで。
随分狂ったことだっだが、
もう今更だった。
でも、ミサキはふと考える。
ミサキが違うアルファを選んだなら。
アキラはどうするんだろう。
その答えはもうすぐわかることになる。
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