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第23話

「ミサキ、調子はどう?」 ユキ先生が聞いてくる。 ミサキは笑顔で大丈夫、と答える ユキ先生は相変わらず、綺麗で醜くかった。 ミサキには週一の面談は楽しみでしかない。 番のいないオメガのためのカウセリングだから、番さえ作らなければ、少なくとも週一のこの時間はユキ先生を独占できる。 それはユキ先生が望んでいることではないけど。 ユキ先生はミサキが番を得ることを望んでるのだ。 それもミサキのためだとは分かってる。 ミサキがユキ先生を好きなのは恋じゃない、それも分かってる。 「小説はどう?」 ユキ先生が聞く。 ミサキは書いてる小説について話す。 ミサキには書いてる間だけが自由なのだ。 この身体から解き放たれて。 アルファを必要としないですむ世界の中で生きられる。 「でも、現実を生きていかないといけないからね、ミサキ」 先生は言う。 痛い指摘だ。 「ミサキがどうしてもアルファと番になるのが嫌だと言うなら、少しでも楽に生きれれる方法を一緒に見つけるよ。でも。それは簡単じゃない」 先生の言葉の意味は分かってる。 成人して、カプセルを取り出した後、抑制剤は気休め程度だ。 オメガはアルファと番にならなくてもヒート中はアルファと「セックス」することを選ぶ。 選ぶしかないのだ。 番を失ったオメガ、ユキ先生もアルファとセックスすることを選んでいる。 今ではミサキはユキ先生が何しているのかを知ってる。 ユキ先生は番のいないアルファのセックスの相手を引き受けているのだ。 先生は毎日。 アルファの生徒とセックスしてる。 それはカウセリングと共に先生の大事な仕事だった。 先生がヒートに入ると、先生は夜も昼もなく、若いアルファ達に交代で犯されていく。 それは先生にも、オメガのいないアルファ双方に利がある関係ではある。 オメガもアルファも。 セックス無しでは生きられないからだ。 番を無くしたオメガの中には性売買で生きる者もいる。 アルファだけではなくベータの相手もするが、ベータに関してはお金だけの問題で、相手をしてる。 オメガにはアルファとのセックスは必要なのだ。 先生は。 ミサキをそんな風にさせたくないのだと分かってる。 自分に条件の合うアルファ一人いてその相手をする方が精神的に「楽」だからだ。 先生のそんな想いは分かってる。 でも、まだ。 ミサキには踏ん切りがつかない。 「アキラじゃなくてもいいんだよ」 ユキ先生は優しく言った アキラと少し仲良くなったのは知ってても、だから番にならなくても良いのだと言ってくれる先生が嬉しかった。 アキラは。 嫌いじゃない。 小さな花や小さな折り紙。 好きな本についての話。 寮まで帰る道、そしてそのまま寮の前で長く立ち話をしてしまうこともある。 それらは嫌いじゃなかった。 アキラがたまに見せる子供みたいな笑顔は可愛いな、と思ったし。 でも。 怖い。 フワッと笑ってるアキラは怖くないけど、ミサキがアキラの方を見ていない時には、食いいるように見ているアキラが。 アキラは適切な距離を守っているからあまり感じないけど、時折匂うあの匂いが。 欲しがられていると分かるのだ。 この学園のゆるい気風から、アルファとオメガがしているところに何度も出くわしてしまっているので、ミサキはアルファオメガがどんな風に互いを貪りあうのかを知っている。 獣のようなセックスを見てしまうと、それはミサキの奥を濡らすけれど、同時にミサキを怯えさせた。 アキラも。 あんな風にミサキを喰らいたいと思っているの? 思っているんだろう。 思っているとわかる。 分かってる。 怖い。 怖い。 疼く身体はオナニーで処理してる。 物足りないと言えばそうだけど。 ヒートが始まってしまえば、こんな自慰ではすまなくなるのもわかってる。 今でも、ディルドを使いたくなっているのに。 でも。 怖い。 怖いのだ。 ミサキをこわがらせようとしないアキラに、ほのかな好意は感じていても、アキラへの怖さは変わらないのだ。 「違うアルファでもいいんだよ、ミサキ。本当に心配だよ、ミサキは」 ため息をつきながら、ユキ先生が髪を撫でてくれるのが嬉しかった。 もうキスもしてくれないことが悲しかったけれど。 先生の指でしてもらったことを考えながら、今日も自慰をするだろう。 「アキラは先生としてるの?」 ミサキは気になっていたことを聞く。 先生は苦笑した。 そう苦い苦い笑いだった。 「ミサキはもうオレが何をしてるのか知ってるんだね」 その声の苦しさにミサキは聞いたことを後悔した。 でも。 もう取り消せない。 でも先生が大好きなのだと目で訴える。 先生はミサキの頬を撫でて、今度は優しくわらった。 わかってる、というように。 「アキラとはしてない。アイツは抑制剤を打ってる。・・・アイツは。頑固だから。でも、ミサキがアキラについて気にすることない。ミサキはミサキが一番良いと思えるアルファを見つけなさい」 先生は言った。 アキラが抑制剤を打っているのは意外だった。 抑制剤は寿命を縮め、アルファとしての能力を低下させる。 アキラはもう既に優位なアルファであるとされていたから。 抑制剤を打たれても、その能力を発揮しているのか、と。 「アキラはミサキにとても執着してる。でも、それはミサキには関係ないんだよ」 ユキ先生は言ってくれた。 「アイツは、オレとする位の方が良いんだが・・・あのアルファらしく無さが、危ういな」 先生は呟いた。 どういう意味か分からなかった。 でもとにかくユキ先生は優しくて。 ミサキは先生が大好きだった。 でも、ミサキがその夜自慰をしたのは、ユキ先生を想ってじゃなかった。 もちろん、アキラを想ってではなかった。

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