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第27話
ミサキの「止まって」という声にアキラは確かに止まったけれど、こんなに近くにいたことはこの学校に来てからはなかった。
いつも適切な距離をアキラが守ってきたからだ。
だけど今、アキラはすぐ近くにいた。
触れこそしないけれど、腕を伸ばし切らなくても触れてしまえるほどの近さだ。
匂いが。
甘い。
アキラの目が金色で、光る目が焼き尽くすように自分を見ている。
その目の虹彩がこんなにもハッキリ見えるほど近い。
アキラの息が荒い。
ミサキに伸ばしかけた腕はそのまま、目だけはミサキの全身を貫いて。
射抜かれ焼かれて、ミサキの中がまた疼く。
ミサキはまた震えてしまった。
今度はアキラに欲情していた。
中が濡れて、滴って。
「そんな顔・・・誰が・・・誰に」
アキラが呻く。
地の底からのような声だったが、傷ついているような声でもあった。
そして、アキラも欲情しているのがわかった。
ミサキの肌を視線が焼く。
そして中まで貫いて、犯している。
「嫌・・・!!」
ミサキは怖がる。
また指一本触れられてないのに、ミサキの中がヒクンと疼いたからだ。
その感覚は自分で指で擦るより、甘くて深かった。
アキラは触れも近寄りもしなかったが、その目でミサキの全身を確かめ、探り、弄った。
「いや、他のヤツの匂いはしねぇ・・・。誰も触っちゃいねぇ。大体、近寄らさせちゃいねぇ」
アキラがひとりごちる。
そこには安心したような響きがあった。
匂い?
アキラもオレから何か匂いを感じてるの?
オレがアキラから匂いを感じてしまうように。
この匂いは何?
他のアルファには感じたことがない。
ミサキはアキラのその匂いに包まれて、その目で身体の中を探られ犯されているようで、でも、またヒクンと身体が揺れてしまった。
気持ち良くて怖すぎる。
「離れて!!お願い!!」
ミサキは叫んだ。
これ以上一緒にいたくない。
無理!!
アキラは黙って少し下がった。
そして、苦しげな顔をした。
「怖がらせたいわけじゃねぇ。怖がらないでくれ」
苦い言葉。
目はもう金色ではなく、いつものアキラの目だ。
ミサキを怖がらせないように視線を伏せているのも。
だけどミサキには怖い。
触られてもないのに、ミサキはその目だけで、感じさせられたのだ。
「お願いだ。俺を。俺に。俺にしてくれ」
アキラはそれだけを言った。
「俺は・・・」
何か言いかけて止めた。
アキラは。
無理やり何かを聞かせようとさえしない。
それが自分の想いであっても。
「選ぶなら俺に」
それだけなのだ。
ミサキは震えていたけれど、安心もした。
アキラは。
アキラだ。
アキラは静かに背を向けた。
離れていく。
ミサキに見えないようにして、ミサキが寮に入るまでを見届けるのだろう。
ミサキはぺたんとヘタリ込み。
少し泣いた。
怖かったからだ。
でも、同時に安心もしていた
アキラは。
ミサキを傷つけない。
そう信じたからだ。
でも。
あのアルファ。
シン。
あのアルファは。
ミサキの心がまた泡立っていく。
シン。
その名前を口に出すことはなかった。
でも。
ミサキの中に確かに刻まれたのだった。
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