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第31話

「アキラ、よく我慢した!!オレに電話くれたのもエラいぞ!!」 ユキ先生はアキラにそう声をかけながら何かを注射した。 そしてアキラの腕を優しく叩く。 「大丈夫だ。オレがいる。ミサキをアルファに渡したりしない。腕をはなしてやれ」 子供に話しかけるように、いや、犯人を落ち着かせるようにユキ先生が言う。 やっとアキラの腕が緩み、ミサキはユキ先生の腕に引き渡される。 「よしよし、ミサキも怖かったな。でも、確かにお前は疑似ヒートを起こしている。アキラじゃなかったら大変なことになったかもしれないぞ」 ユキ先生は言った。 「疑似ヒート・・・?」 ミサキは言う。 「性的に興奮しきったオメガは、ヒートに近い状態になる。ヒートほどでなくてもアルファは抗うことが難しくなる。オメガはアルファの欲望そのものだから。でも大丈夫。ヒートと違って鎮静剤で治まるよ」 先生はミサキにも注射を打った。 「アキラ、よく頑張った。【処理】がいるか?オレが相手をしてもいいし、誰かを呼んでもいいぞ」 ユキ先生の言葉にアキラは首を振った。 「要らない。誰も要らない。欲しいのは一人だけだ」 アキラの声は。 深くて低くて。 ミサキに届く。 「そう・・・」 ユキ先生はアキラに気の毒そうな顔をしていた。 ミサキは打たれた薬のせいか、どんどん眠くなっていく。 「ミサキは落ち着くまでオレが面倒を見る。だから安心しておけ」 先生がアキラにそう言ったのが聞こえた気がした。 「ミサキ・・・俺を嫌わないでくれ」 アキラの悲痛な声が聞こえたような気もした。 「ベータ同士だったらね・・・お前らすぐにくっついたんだろな」 ユキ先生のため息が聞こえた気もした。 ベータ同士? いや。 アキラはアルファだから、オメガのミサキがほしいのだ。 番とは。 何? 何なのだろう。 互いを縛る鎖のような・・・ ミサキは泥のような眠りの中に落ちていった。

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